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melody-3
「竹下さん」
ロビーで待ち合わせていたグループリーダーの吉岡さんが駆けてきたのでソファから腰をあげた。
「ごめんね、遅くなって。行こうか」
「はい。大丈夫でした?奥様」
「うん……ごめんね、迷惑かけて」
「いえ、双子ちゃんだし大変じゃないですか。私ではたいしたこと出来ませんが何かあったらちゃんと奥様とお子さん優先してくださいね」
「ありがとう。本当にごめんねぇ~なんかバタバタしちゃって」
吉岡さんには一歳を過ぎた双子のお子さんがいて今奥様は妊娠中。産まれるまでまだ時間はあるが育休申請をするつもりだと言う。
「単純に手が足りないよね……仕事に迷惑かけるけど」
「育休申請は社員の権限ですし、会社がきちんと許可を取ってるんだから気にすることはないと思います。国見さんも理解ある上司じゃないですか、二カ月で足りるのかなって私にぼやいてましたよ?」
「え、本当?いやでも休みすぎると正直お金もさぁ……」
欲しいもの、願うもの、叶えたいものや妥協しないといけないこと……世の中はそんなことだらけでいつでも何かに悩まされている。それでもいろんな条件を提示されたって最後に選ぶのは自分なんだ。
「とりあえず、休むまではしっかり仕事して迷惑かけないように頑張るよ!サポートお願いします」
「もちろんです」
そして訪れた先は――銀行だ。
私が勤めている某カフェ企業はこの度異業種コラボレーションでファイナンシャルグループに属する【**銀行】に店舗スペースを併設することになった。銀行側には、施設の待ち時間を利用して金融相談に対応できるメリット、施設側にも利便性の高い土地でビジネスを展開できる。提供するカフェスペースで美味しいコーヒーやお菓子を堪能しながら資産運用等の相談もできるというウィンウィンの関係。その話が進み今日は打合せだ。
顔合わせから何度か打合せには訪れやり取りもある。慣れないことや問題が起きることもあるがさほど大きなトラブルはなく順調にコラボは進んでいた。約束された時間、通された打ち合わせ室で吉岡さんと資料やパソコンの準備をしていたら扉が開いた。
「お疲れさまです」
「お疲れ様です、いつもお世話になっております」
挨拶を済ませた後、担当の方と吉岡さんのやり取りをパソコンの設置に視線を落として耳だけで聞いていた。セッティングが出来ていないと話にならない。
「こちらこそお世話になっております。今日は異動してきた者がいるのでそのご紹介だけ先によろしいですか?」
「アドバイザーとしても今後利用させていただくと思います、よろしくお願いいたします」
「頂戴します、こちらこそよろしくお願いいたします。吉岡です」
私も名刺の準備しなきゃ!と、準備資料も整ったので顔をあげたら目が合って私は固まった。
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