melody-5

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melody-5

 懐かしい記憶を思い出す。しまい込んでいた記憶は案外鮮明に思い出されるものだ。あの頃の――まだ幼くて目の前の事しか見えなかった自分。先輩の事しか見えなかったあの頃……。  一年見守るだけの恋。それだけでも楽しくて満たされた毎日だった。ただそれだけの密かな恋をしていたら先輩は学力高めの進学校へと卒業していった。会えなくなっても地元、どこかで会えるかもなんて淡い期待はあっさり裏切られ嘘か本当かわからない噂だけを耳にしつつ先輩への思いだけを募らせていた。  努力して先輩の通う高校を目指して見事合格した私はブレザー姿の先輩をお目見えして今度は本当に鼻血を噴いた。しかも入学式後、部活にやってきた先輩を見つけた時に本人の前でだ。驚いた先輩は笑うよりも心配して保健室まで連れて行ってくれたので必死に自分は怪しいものではないと説明した。同中の後輩、身元は知れている、その説明を話しまくって今度は笑われた。でもそれがキッカケなんだ、先輩が私に興味を持ってくれたのは。それから挨拶してくれたり声をかけてくれるようになって、夏の部活が終わった後に信じられない事件が起きる。 「付き合わん?」 「え?」  登校の朝のバスの時間を一緒にしていたのはわざと。バスを降りて校門前で先輩の足が止まって普通の会話の中で言われた。 「なにに?」 「俺に」 「え?」 「俺と」 「え?」 「考えといて?でもなるはやで」  頭に掌ぽんぽんされて先輩は三年の校舎へ行ってしまった。付き合う、の意味がすぐには理解できなかったがそれが「先輩とお付き合い」だということだと理解できたのは陽ちゃんに説得されて。自分ではとても理解しきれない事だったから、それくらい衝撃な出来事だった。 「はぁ……」  あれから数週間、憂鬱だ。たかが仕事のメール一個送るたびにため息とこの憂鬱感……老けそうだ。 (もう仕事辞めたい)  私の脳内はそこまで落ちている。あの再会から鷲見先輩の事ばかり考える、思い出す、病む、の繰り返し。このままでは鬱になりそうだ。  とりあえずやらないといけないことをする。今日吉岡さんは奥様のつわりがひどいらしく半休だ。頼まれた図案と、私の調査してまとめた見積もり書類を添付して鷲見先輩に送付する。基本はメールのやり取りばかり、実際打合せで会ったのもあの一度きり。メールも問題がなければそれに反応もない。そんな感じだったのに。  一通のメールが届いたんだ。
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