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あれから一ヶ月。
最初は外出が怖かったものの、少しづつ遠い距離を移動できるようになった。
石神さん曰く、成功体験を積んでいくことが、パニック障害の一番の治療方法らしい。
そんな今日この日に出かける先は、等々力渓谷。
石神医院に、通院するために頑張って訪れた。
「だいぶ、パニック障害は寛解してますね。
たった一ヶ月でほぼ克服とは、心の強い女性ですね」
初めて心から微笑んだ石神先生の顔を見た気がした。
その横顔は、とても美しい。
「ありがとうございます。でもなんで妖怪に詳しいんですか?」
「……誰かを助けるのに、必要以上の知識が要ることもあるだけです」
意味ありげに彼はつぶやいた。
その横顔を見て、聖菜は微笑む。
たった一日の出来事だったけど、2人にとっては長い妖怪退治の旅だった。
それを乗り越えた今、ほんの少し親しくなった気がした。
少なくとも、聖菜はそう思っている。
「ところでですが、先生」
「はい、なんでしょうか」
「新しい記事、連載になるんです!
タイトルは”陰陽医師のお祓い退治録”です。
これからも取材協力、よろしくお願いしますね」
「僕は二度と協力しません!さぁ帰った帰った!」
背中を押して聖菜を病院の外へほっぽり出す。
石神がぶっきらぼうに、薬を押し付けてくるので受け取ると、即座に扉を閉められた。
バタン、ガチャッ!
「え、先生!先生ってばぁー!」
締め出された!……まぁいいか!
ドンドンと戸を叩く手が緩む。
これからどんなことが待ち受けているのか。
少し楽しみになりながら、聖菜は病院を後にするのであった。
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