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「気付きましたね、憑き物の正体に。 毒による呼吸困難と麻痺・空腹をきっかけに創り上げられ、発症したパニック障害。 これこそヒダル神の正体です」 科学と民俗学で名前が違う。 ヒダル神とは民俗学での名前、科学での名前はパニック障害。 だから石神さんは私を連れ出す時に眠らせたんだ。 パニック障害を引き起こさないよう意識をなくすために。 ー車移動は問題なしー その言葉の意味も今ならわかる。 パニック障害の発作が条件づいていないことを確認したんだ。 「玄関を開けたくてもパニック障害で死ぬほどの苦しみを味わうと思うと、当然扉を開けられなくなる。 結果やがて餓死する。出前だって扉を開ける行為、無理だったろう。 こうして外の世界と隔絶し、衰弱・餓死へ導いた」 「でも、私には動機はないわ! 殺す必要無いのに、でたらめなこと言わないで!!」 比芽は髪を振りかざし、半ば錯乱しながら言葉をぶつける。 そこには今までの溌剌とした後輩の姿はない。 狂気に震える悪鬼羅刹のようだ。 「その動機こそが、あなたに憑いた橋姫そのものです。 異常に膨れ上がった嫉妬と独占欲があなたを殺人へ駆り立てた。 「嫉妬って……比芽。あなたもしかして嶋根先輩を」 信じられない。 あれだけ嶋根先輩の愚痴を言っていた比芽が!? 「慕っている男を、同じく尊敬する女性に盗られたと思った。 だが愛しい男性の眼中に自分は映らない。 尊敬する女性には、恋路と仕事の両方で足元に及ばない。 恋も仕事も成功が収められないと、あなたは思ってしまった。 その瞬間、あなたの心に『橋姫』が宿った」 そうか、もう壊れてしまっていたのだ。 比芽は私に仕事でも恋路でも嫉妬を抱いていた。 そんなことにも気づかなかったなんて。 「なら……なら私はどうすればよかったの。 これからどうすればいいの……。 好きな男を殺し、尊敬する先輩も葬ろうとした私が、どうしろってのよ!!」 その場に崩れ落ち、狂乱する比芽。 石神が優しく、そっと寄り添い言葉をかける。 「橋姫は嫉妬深い女の情念であるとともに、その姿は悪縁を切る神でもあります。 今までのあなたと縁を切り、新たな自分として歩むことが、せめてあなたにできることではないでしょうか」 一人の女のすすり泣く声が、部屋に響く。 その姿はいくつも歳を経てしまったように生気を失っていた。 橋姫は祓われた。 遠くでらパトカーのサイレンが、都会の闇を明るく照らすのであった。
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