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等々力渓谷にある石神医院。 いわゆる町医者だが、院長が変人と噂らしい。 怪奇街道メディアは、街の変わり者や怪奇談を掲載するのが主旨のオンライン誌だ。 私は先週、なぜか偶々ビビッときたこの医師を載せようと思い、アポを取った。 「失礼します、幻語社の宇佐美です」 「来ましたか」 黒々とした長めの髪、グラスチェーンのついた賢げな眼鏡。 細い顎にどこか冷たい目つき。 白衣の似合う美青年は、変人や怪奇とはかけ離れていた。 「院長の石神(いしがみ)晴知(はるあき)です。どのような症状で」 「ち、違います!メディア記事の取材で……」 「あぁそうだった。貴女から不穏な影を感じたので。 最近少し気落ちすることがあったのでしょう」 一目見るなり、ピタリと言い当てた。 噂通りの変人だ。 超常の能力者か、この方は! 「え、なぜそれを」 「顔色もそうだが、靴の減り方に対し歩幅が小さい。 前向きになれず落ち込んでる証拠ですよ」 人並外れた観察力。 まるでシャーロック・ホームズ。 顔も頭も良い、才色兼備が過ぎる。 「当たりです、実は会社の先輩が不思議な死を遂げて……」 つい先輩の餓死事件を話してしまったが、院長はその間も真剣に耳を傾けてくれた。 「ふむ、”ヒダル神”……か」 「えっ?」
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