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結
嘘だ。比芽が先輩を殺して、私を追い詰めた?
息が浅く早くなる。動悸が収まらない。
「聖菜さん、落ち着いて。
ここには引き金になるものはありません」
薬をぐいと飲まされる。
なんだか心が落ち着いてきた気がする。
「な、なんなのよアンタは!」
「僕は石神晴知、しがない医師です。
あなたが妖怪を遣う妖怪なら、さしずめ僕は式を使って祓う陰陽師だ」
側にいた石神さんが、荒れた部屋の真ん中へ歩み出る。
比芽が恐れおののき後退する。
「事件を解く式は簡単だ。
まずは嶋根貴仁さん殺人事件。
橋本さん、あなたはまず彼にヒダル神を飛ばした。
とあるゼリー飲料にドクニンジンの毒を混ぜましたね。
今見つけた小瓶、この中身がその成分です」
小瓶をゆらゆらと揺らす。
「この毒は呼吸障害と手足の麻痺・痙攣を起こします。
彼はある方法で度々口にしてしまい、中毒症状に陥った」
「残念ですが先輩の死因は餓死よ、毒殺じゃありません」
確かに比芽の言うとおりだ。
嶋根先輩は毒で死んだわけでもない。
であれば、そんな小瓶を見つけたところで殺人の証拠にならない。
「確かにその通り。だからあなたは”毒をきっかけにヒダル神を召喚した”。
聖菜さん。君も呼吸障害と麻痺をしましたね?」
「そう、ですね。比芽からもらったゼリー飲料を口にした後、ってもしかして……」
まさか、私にも毒を盛ったの?
誰よりも慕ってくれている、この後輩が?
「で、でもそれ以外の時も息苦しさや麻痺はありました!
むしろそれ以前から似たことが何度も」
「当たり前です。定期入れに極微量に塗布されたり、飲み会の場で盛られていたんですから。
ドクニンジンの毒は特有の厭な臭いがする。
聖菜さん、あなたは花粉症で気づかなかったようだがバッグの中からその香りが微かにした」
そうか、それでバッグを引っ掻き回した時に!
持ち物の何かにつけられたその異臭の段階から、事件性に気づいていたのだろう。
その瞬間、石神さんの携帯が鳴る。
「はい、もしもし……やはりそうですか。ありがとうございます」
短い言葉を電話に告げ、即座に切る。
そして少し笑みを浮かべたかと思うと、眼鏡越しの鋭い目つきで比芽を見た。
「嶋根さんの定期入れやゴミの中からドクニンジンの成分が見つかったそうです」
あの時手渡したメモは、毒の成分を調べろと言う指示だったのか。
「おそらく嶋根さんも同じように電車内での呼吸障害や異常な空腹感は何度かあったのでしょう。
そしてふたりとも同じ状態に陥った。
脳が、『外出時に、息苦しく空腹を感じて動けなくなるぞ』と学習した状態へ」
脳が、外出を不可能にするほどの学習。
もしかしてそれって!!
聖菜も正体に気づいてしまった。
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