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起
「嶋根先輩が餓死?」
都内にある出版社、幻語社。その秋空が眩しい休憩室。
宇佐美聖菜は後輩の橋本比芽からそんな話を聞いた。
「そうなんですよ、もしかして宇佐美先輩にフラレたのがそんなにショックだったとか」
ことの重大さと比した、冗談交じりの口調で比芽がからかう。
第一、嶋根貴仁という男がそんな簡単な理由で病むわけがない。
コーヒーを飲みながら呆れるが、花粉症の鼻詰まりで悲しいかな匂いがわからない。
「そんな訳ないでしょ。先月から出社しなくなったと思ったら亡くなってたなんて」
「貯金もあるし、病気で動けなかったわけでもないそうですよ」
不審死。誰かに殺されたわけでもなく餓死。
不可解な怪奇事件だ。
身近なのに現実味を感じないのは、一種のパニックかもしれない。
脳が情報量に負けている。
「私が特集した『身近に潜む毒!死亡事故5選』みたいな話なら、原因も分かるんですけどねえ。
……って、先輩!時間です!
来月の『怪奇街道メディア』の取材!」
そうだ、16時から等々力渓谷の予定だったことを思い出す。
「ごめんね、比芽!行ってくるわ!」
「あ、待ってください!先輩これを!」
比芽がゼリー飲料を投げ渡す。
気の利く後輩だ。
「お仕事終わりに元気補給してくださいね!」
「ありがとう!」
「元気に!なるのに!飲んでください!」
比芽が釘を刺す。
ゼリー飲料をバッグにしまい、元気に外出をした。
その日がとてつもない出会いの日となるとも知らずに。
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