273人が本棚に入れています
本棚に追加
「アオイ、と言いましたか?」
「はい」
「この花はご自分で咲耶姫に届けなさい」
千々姫様はポインセチアを私の胸へ押し返す。
「あ、でも、私、咲耶姫様にお会いできないんです。会ったのは一回だけで、その後何度も行こうとしたけど咲耶姫様の神社が見つからなくて……」
展望台のある山はわかっているので何度か足を運んでみた。けれどあの日迷い込んだ登山道も神社も、灯篭の一つさえ、見つけることができなかった。どんなに咲耶姫様に会いたいと願ってもまったく道は開かれない。ただあの出来事が夢ではないと思えるのは、咲耶姫様からもらったびーどろのぐい飲みグラスが手元にあるからという理由だけだった。
千々姫様はおもむろに首にかけていたストールのようなものをしゅるりと抜く。
「私と一緒に行けばいいのです」
「え?」
「さあ、ここにお乗りなさい」
ストールだと思っていた布は、目の前でまるで魔法の絨毯のように大きく広がった。千々姫様は音もなくその上に乗る。
「さあ、アオイも」
手を差し出され、恐る恐る千々姫様に触れた。ぐっと手を引かれ布の上に乗ると、一気に上昇していく。
「え、え、え、ちょっと待って。千々姫様!」
「怖いですか? 私に掴まっていればいれば大丈夫ですよ」
「絶対絶対手を離さないでくださいねっ!」
安定して飛んでいるのだと思う。だけど足元の布は風に揺られてなびき、視覚から恐怖を感じ取ってしまう。私は千々姫様の手を力いっぱい握りしめた。
「アオイ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。ほら、下を見てごらんなさい」
「怖いですっ」
「大丈夫ですから。ほら」
千々姫様が体を支えてくれるので、私は恐る恐る下を覗き込んだ。
「うわぁ!」
赤や青やオレンジ、ピンク。色とりどりの光がまるで宝箱を開けたみたいにキラキラと輝いている。街の至るところでこんなにロマンチックに光を放っているなんて知らなかった。
感嘆のため息を漏らす私に、千々姫様は柔らかく微笑んだ。
「これは私からアオイへのクリスマスプレゼントです」
最初のコメントを投稿しよう!