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「というわけで、結婚式の装花を引き受けていただけないでしょうか」
「はい、それはもちろん構わないのですが、花束を購入するのとは違ってご契約いただかないといけないのですが……さすがに自作自演は難しく……」
「ええ、そのために、僕がここに派遣されました」
斉賀さんはペラリと一枚の紙を見せてくれる。そこには、“アオイの花屋の場所”と達筆な文字と、随分と大雑把な地図が描かれていた。
「よくこれでここがわかりましたね」
「そうですね、わからなさすぎて何軒か花屋を巡りました」
「そうだったんですか」
「ええ、でもあなたを見つけることができてホッとしています」
ふっと微笑む斉賀さんに、一瞬既視感を覚えた。私は彼とどこかで会ったことがある? いや、ぐるりと記憶を巡らしてみても、心当たりがない。
「お見積りを取るために、一度会場となる場所へ行きたいのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんです」
「ちなみになんですけど、咲耶姫様、装花の料金払ってくれますよね? さすがに自腹はキツイなあと……あ、いえ、お祝いする気は満々なんですけどね」
「もちろん支払うと仰っていましたよ」
「まさかお賽銭から払うんじゃ……?」
「さあ、どうでしょう? その可能性は高いですよね」
参拝者からのお供え物のお菓子を躊躇なく食べていた咲耶姫様を思い出して、思わず笑みがこぼれた。そんな私を、斉賀さんは不思議そうに眺める。
「なんか……いいですね」
「はい?」
「望月さんと神様の関係。まるで友達みたいだ」
今度は私が斉賀さんを不思議そうに眺める。
神様との関係がどんなものか、考えたこともなかった。
「私は神様に対して失礼でしょうか?」
「いえ、良いと思います。そうじゃなきゃ、こんなこと頼まないでしょう?」
斉賀さんは柔らかく目尻を落とす。
落ち着いた佇まいが、まるで神様に見えた。
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