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こじんまりとした神社かと思っていたけれど、拝殿も本殿もとても立派で荘厳な造りだ。決して華美ではないけれど、存在感がある。
「ここで結婚式を挙げられるそうで、望月さんに装花をお願いしたいとのことです」
「咲耶姫様はいらっしゃらないのですか?」
「そうですね、神様たちは気まぐれですので。それに、基本的に昼間は来ないです。来るとしたら夜ですね」
「そうなんですか」
咲耶姫様にまたお会いできるかと思っていただけに、残念な気持ちになった。だけどせっかく咲耶姫様からいただいた仕事だもの。全力で頑張ろうと思う。
斉賀さんにお願いして拝殿に上がらせてもらい、何枚か写真も撮った。こうしたらどうだろうかと斉賀さんと相談しながら、着々と装花のイメージが膨らんでいく。
なんだか不思議な気分。
神様のことを誰かと話をするなんて思ってもみなかったから。
「望月さんと出会えてよかったです」
斉賀さんがぽつりと言う。メモを取っていた私はつと顔を上げた。
「いえ、すみません。僕は子供の頃から神様が見えて、だけどそれが普通じゃないんだということに恐怖を感じていました。大人になった今でも、神様が見えるなんて誰にも言っていません。言っても信じてもらえないからです。だから初めてなんです。神様について誰かと話をするのが」
「あ……私も、まさか神様が見える人がいるなんて思ってもみなくて。訪ねてこられたときは本当に驚きました」
「咲耶姫様は突然やってきて、望月さんの花屋に行ってきてくれと命令するんですよ」
「咲耶姫様らしいですね。しかも望月葵って誰だよってなりますね」
「そうなんですよ。半信半疑でしたけど、ちゃんと望月さんを見つけることができてよかった」
「あはは。見つけられちゃいました」
二人でクスクス笑っていると、ふいに奥の本殿から人が現れる。それは音もなくすーっと近づいてきて――。
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