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「透よ、アオイを下まで送ってやれ」
月読様が斉賀さんに命令すると、「わかっております」と月読様に一礼をした。慌てて私も月読様に一礼をする。
本来、神様に対して斉賀さんのように敬意を払うのが正しいのかもしれない。私が敬意を払っていないかというと、そういうわけではないけれど、少しばかり馴れ馴れしいかもしれないなと思ったりするわけで……。今更ながら反省だ。
「望月さん、薄暗いので足下お気をつけください」
「ありがとうございます。月読様も、ありがとうございま――あれ?」
気づけば月読様の姿はなく、所々に咲いた彼岸花が優しく風に揺れた。
「月読様は気まぐれなので。昼間は滅多に姿を現さないのですが、今日は望月さんがいらっしゃったので、嬉しくて出てきてくださったのだと思います」
「そうなんですか。それなら私も嬉しいです」
ゆっくりと石段を下る。斉賀さんは私の速さに合わせて一緒に下りてくれる。彼のまとう空気感はとても洗練されていて、一緒にいると不思議と心地良い。
最後の石段を下り、改めてお礼を言おうと斉賀さんを見ると、先に彼の口が開いた。
「望月さん、よろしければ僕と友人になってくれませんか」
「わわっ、ぜひ。私も、斉賀さんとお友達になりたいなって思っていました」
ドキンドキンと心臓がときめく。
これはきっと神様が繋げてくれたご縁だ。
これからもずっと大切にしたいと、漠然とそう思った。
「葵さんとお呼びしてもいいでしょうか?」
「もちろんです、透さん」
ニッコリと微笑んだ透さんの表情はとても綺麗で、幽艷な月読様の姿を彷彿とさせる。
ふと見上げれば奥の鳥居の上に小さな人影が見えた。きっと月読様だ。
透さんと月読様、なにか縁深いものを感じて、私の心は風に揺られる草花のようにさわさわと揺れた。
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