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「おい、大丈夫か朝倉、おーい」
目を開けると、さっきまで一緒にいた黒ローブの男と同じ顔が視界の横からにゅっと出て、太い眉毛をハの字に曲げて心配そうに私を見下ろしていた。
「……どこ? ここ」
「近くの公園のベンチ。朝倉、泣き喚いてたと思ったら急にグロッキーになったもんだから、店出たとこ。竹村が今水買いに行ってくれてる」
「そっか……さっきはごめん。それと、今も」
「別に。気にするな」
謝りながら、私は後頭部に当たる少し骨ばった感触の正体を察しそそくさと起き上がった。膝枕なんて小学校低学年の頃にお母さんにしてもらって以来だ。それを同僚の男性にされていたという事実はとても恥ずかしく、同時に、人に甘える感覚を久しぶりに思い出してちょっぴり懐かしくもあった。
そういえば、最後に誰かに甘えたのはいつだっただろう。
「ねぇ、藤井くん」
さっきの黒ローブの彼の言葉を思い出し、私は意を決して話しかけた。胸の前でギュッと両手を握り、なけなしの勇気の種を絞り出す。
「私が昔、黒江瑠奈にいじめられてたって言ったら、どうする?」
震える手を抑えながら返事を待つ。
突然の告白だったはずだけれど、藤井くんはそれほど驚いた素振りを見せなかった。
「冗談、なわけないよな。そんな顔して」
そう言うとごそごそとポケットを漁り、ケータイを取り出す藤井くん。街路灯たった一つの心許ない暗闇の中、四角い液晶画面が鈍い光を放っている。
彼はその画面を何度か指でなぞった後、こちらに向けた。「瑠奈ちゃんねる」という文字が画面の中央に躍っている。
「こんなもの……こうして、こうだ!」
「えっ」
驚いて素っ頓狂な声が出た。藤井くんはファンだったという黒江瑠奈のチャンネルの登録を、なんの躊躇もなく解除してみせたのだ。
「……いいの? 好きだったんでしょ?」
「いじめっ子だって知ってたらそもそも見てない。それに会ったこともない美人より、今隣にいる君の方が大事だから」
最後の方は恥ずかしくなったのか、声が小さくなっていた。それでも私はその言葉を聞き逃さなかった。心臓がトクン、と嬉しそうに跳ねる。
おかしいな。男性としては対象外だったはずなのに。
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