自分の余命を知ることができたら、貴方はどうしますか?

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エステの予約をした。 私と神様の二人分だ。 残す余命はあと二ヶ月。 「女性に変身できるって言ったじゃない」 「嫌だ。女装趣味はない」 神様はけっこう我儘だ。 仕方がないのでカップルプランで予約した。 花びらを浮かべた桶で足を洗い、そのままフットマッサージをしてもらっている。 「彼女さんはとても綺麗な足をされていますね」 「ありがとうございます」 エステシャンの人に褒めまくられるので、まるで自分がお姫様になった気分だ。 「くすぐったいよ」 神様は足の指のマッサージが少し嫌そうだ。マッサージしてくれている人を蹴らないか気になってしょうがない。 タオルを引いたベッドにそれぞれ寝かされる。 ココナッツオイルで全身マッサージされて、最新の美容マシーンで肌の老廃物を取り除いていくらしい。 「かなり疲れるね」 「そうね……意外と体力を消耗するわね」 二人でそう話しながら水着でフローラルバスに浸かっていた。 「一日コースにしなくてよかった」 「お腹すいたわ」 「帰りに何か食べていこう」 今日は出かけるから、夕食は温めて食べてもらえるよう冷蔵庫に入れてきた。外で食べてくると拓也さんには言っている。 「私、家では和食ばかりだし、今日はお洒落なフレンチレストランを予約したの」 男性だから焼肉とかが良かったかしら…… 「僕は肉は食べないと思われているけど、肉は大好きだ」 信仰はどこへやらで神様は何でも食べるようだ。 「神様はニンニクとかニラとか食べたらだめでしょう?」 「僕はもつ鍋が大好きだ」 宮司である父は一日潔斎や三日潔斎、五日潔斎の前には精進料理しか食べないし、捧げた供物を降ろして食べている。 「神様と一緒にいると、信仰って何なのかしらと思うわ」 そう言えば結婚してからもつ鍋なんて作ったことないけど、拓也の好物がもつ鍋だった。 美味しいからって駅前の専門店に連れて行ってもらったんだ。 「初めてのもつ鍋はおいしかった?」 「また勝手に人の心を読んだのね。もつ鍋はおいしくなかったわ。社家で育ったんだもの。臭いのきついものは食べては駄目って言われていたから、正直キツかったわ」 神様は笑った。 「夜景が見えるバーでカクテルを飲むなんて、セレブみたい」 最後はホテルのラウンジでお酒を飲んだ。 「ジャケットを買わされた」 神様はドレスコードがお気に召さないようだった。無理やり購入したジャケットにさっきから文句を言っている。 「神様、とてもジャケットが似合うわ。イケメンよ。素敵に見えるから、隣で歩ける私は光栄よ」 「僕は神様だからね。なんでも着こなすんだ」 少し機嫌が直ったようで良かった。 神様はちゃんと私をエスコートしてくれた。 「綺麗ね東京の夜景。こんなに高い場所から見るのは初めてよ」 「小春が僕のところへ来たら、こんな景色よりずっときれいな景色が見られるよ」 「そうなのね」 神様は小春に微笑んだ。 「出かけることに文句は言われなかったの?」 「今まで自分が好き勝手に出かけていたんだから、私に文句なんて言えないでしょう」 拓也には『行ってきたらいいよ。僕は適当に何か食べてくるから大丈夫だ』と言われた。 「もう不倫は終わったって言っていたね」 「別れたみたいね。けれど、もうどうしようもないわ。あと二ヶ月だもの」 「もうすぐだ」 そう。もうすぐ私は死ぬ。 「私は死んだら神様になるのかしら?」 「君は死んだら神様にはならない。神様はそんなに簡単になれる職業じゃないんだ」 「なら、私は死んだらどうなるの?」 「約束だろう。僕のお嫁さんになるんだよ」 約束した覚えなんてない。 「五歳の記憶なんてないわ」 「僕も子供の姿をしていたよ。だから君と一緒に神社の境内で遊んでいたんだ」 「そんな事があったかしら?」 「ああ。かくれんぼして、おにごっこもしたんだ」 まったく覚えていない。 「子供同士だったのね。けれど拓也さんと結婚しちゃったのね……結婚の約束が果たせなくて、ごめんなさい」 「いいよ。拓也に先に結婚されちゃったけど、なんの問題もない」 神様は私がバツイチでもいいらしい。 寛容な心の持ち主だわ。 「どうしても気になるんだけど」 「なに?」 「私の死に方。体調が悪いわけではないのよ。だから病気で死なないのよね?私最期まで元気で生きていたいと思うの。歩けなくなったり体力が無くなったりしたら残りの二ヶ月を楽しめないわ」 「病死ではないよ。最期まで元気でいられる」 それだけが気になっていた。 「良かったわ」 神様は私の死に方を教えてくれない。 回避はできないことだから、最終的に死ぬことには変わりない。 死ぬまでは元気でいられるのはとても嬉しい。 「心残りがないように、しっかり生きて」 「わかったわ」
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