最終話

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最終話

そして半年後。 ほぼ全てのイナゴが姿を消した。 私達は使命を果たした。 やるべきことを成し遂げたのだった。 これから起こる未来の出来事に対し、危機感がなかった国民からは、さほど感謝はされない。 増えてきた害虫を駆除してくれた。その程度にしか思われなかっただろう。 けれど自分達には、大業を成し遂げた達成感はあった。 英雄扱いして貰いたいわけではなかった。 タイムリーパーたちの目には三年後の自分達の生存という未来が見えていた。 やっと巻き戻しが終わる。それが嬉しかった。 「皆大儀だった。国王は事態を深刻に捉えていた。私達の活躍に褒美を与える」 王子がタイムリーパーたちを集めて話をした。 視察という名目で、国王自ら足を運びイナゴの大群を目にしている。 まだ来ぬ未来に危機感を持ち、先手を打ったフェリペ王子、そして私達を評価してくれた。 「とうぶん虫は見たくない」 「確かに」 みんな笑顔で終わりを喜んだ。 それぞれに報奨金が与えられ、国王により爵位および勲章の叙爵が決まった。 王子は皆にそう告げた。 「グレースは報奨金を何に使うの?」 タイムリーパーの一番年下のマイクが私に聞いてきた。 「王都に土地を買って、お父様にあげるわ。荘園を作りたいんですって」 「自分では使わないんだ?」 「そうね……ちょっと美味しい物でも食べに行こうかしら」 「そんな事でいいのか?」 オリバー様が驚いている。 「ならばオリバーは何に使うの?」 マイクはオリバー様にも質問する。 「そうだな。ちょっとこの土地に興味があるから、地ならしして農作物でも作ろうかな」 「ここはグレースのお父さんの土地だろう?」 「まぁ、そうだな。彼が許可したら作ろうかな」 オリバー様は笑っている。 火魔法を使うセインが話し出した。 「この土地がなければ、今回の計画はうまくいかなかっただろう。イナゴの発生している地域のちょうど真ん中にあったし、広大で誰も住んでいなかったからね。あの時ここが農地だったり、避暑地だったりしたらこの計画はとん挫していただろう」 彼はこの国の地理を熟知している。メンバーの頭脳と言ってもいい。前回までのイナゴの進路を計算して、条件的にここを選んだんだろう。 父が購入していてよかったと言ってくれた。 父はグレースの様子を見にここへやってきた。 自分の土地が今どうなっているかも気になったようだ。そこでイナゴの大群を見、全く何もない原野になってしまった土地を見て絶望していた。 オリバー様は父と何やら話をしていた。彼はこの土地を買い取ると言ったのかもしれない。 お父様はこの土地から解放されれば、屋敷も売らずに済むし、貴族籍も手放さずにいられる。 「父はもう、この土地には興味がないでしょうから、オリバー様が好きに使っていいと思うわ。今この土地はとても肥沃な状態だと思う。きっと良い農地になります」 私はオリバー様の意見に賛成する。 「農地にするよりも、私たちでここをパラダイスにしましょうよ。人工的に作るの。湖をつくり、区画整理して道にレンガを敷き街路樹を植えて」 テレーネが夢見る少女のような顔でオリバー様にすり寄った。 いえ、彼は農作物って言ったじゃない。なんでパラダイスなのよ。 二人の距離の近さに少しムッとする。 「そうだね。僕たちがいつでも遊びにこれるように別荘を建ててよ、オリバー様なら巨大なスパも作れるでしょ?」 「なんか楽しそうだな」 「私たち八人の銅像も建てましょうよ。国民に知らしめて、感謝を忘れないように英雄の像って名前つけましょう」 計画はどんどん進んでいった。 オリバーも満更嫌そうではなかった。 考えたら温泉もあるし、皆がいれば簡単に湖もつくれて丘もできて…… 私もなんだかウキウキした気分になった。 けれど、話題が尽きると、私達は目標達成したのに、なんだか喪失感や虚無感に囚われた。 それは皆と別れる寂しさから来たものだった。 皆、情熱が冷めてしまい、新しい何かの目標を作りたいのかもしれない。 それぞれ、これからどうするのかという話になった。 「そういえばグレースはオリバーの家でメイドをしていたのよね?もう働かなくっても暮らしていけるわね」 テレーネの言い方に何か含んだものを感じた。 私は働かなければ暮らしていけないほど貧しいわけではなかった。嫌味を言っているのかしら? もしかして、テレーネはオリバーの事を好きなんじゃないのかしら。 急に不安になり、そして腹が立ってきた。 「そうですね」 「王都にタウンハウスがないから、今日はオリバーの家に泊めてもらおうかしら」 「いいんじゃないですか?オリバー様はもう独身でらっしゃいますし、何の問題もないかと」 表情を変えずに私が言う。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。子づくりはどうするんだ!」 「え?」 「は?」 「ははっ、子づくりって何?」 フェリペ王子が笑いながらオリバーに聞いた。 「私はこの任務が終わったら、グレースと結婚するつもりだ」 「へぇーそうなんだ」 「へー」 「ふーん」 「そ、そんな事承知した覚えはありません」 なんで今そんな事をいうのだろう。 みんなの前で子づくりなんて! 急に恥ずかしさが込み上げてオリバー様に文句を言った。 「だってイナゴの駆除が終わったら考えるって言っていたじゃないか」 「それは……そうですけど」 なんだかみんな、クスクス笑っている。 「ほんと、貴方たちって見ていてイライラするわ」 「さっさとプロポーズしちまえよ」 「グレースがいらないなら、私がオリバーもらっちゃうからね」 テレーネの言葉に、彼女がわざと泊まるなんて言ったんだと気が付いた。 皆は私たち二人の仲を知っていたんだ。 二人の仲というほど、そこまで親しくしたつもりはなかったけど。自分の気持ちを知られていたようだ。 「皆さんご存じだったんですか?その……私がオリバー様にそう言われてるって事」 「知ってるも何も、グレースには近づくなっていつも牽制してたじゃないか」 「そうよ、独占欲の塊みたいな人よね。鬼の形相で睨み聞かせてたわよ」 皆はオリバー様を揶揄った。 そんなにバレバレだったのかしら…… 「私は……その……ええ。分かりました」 「ん?」 「分かりました。子づくりします。けど、先にちゃんと結婚して下さい」 オリバー様は急に焦りだして、私の手をギュッと握った。 「ちょっと待って、私と結婚してくれ」 「だから良いって言ったじゃないですか」 「だから、結婚してくれって僕が言うのが先なんだ」 「だから、返事してるじゃないですか」 皆が呆れた顔で笑いだした。 「まったく、見てらんないわね」 「おめでとうオリバー」 「プロポーズは成功したぞ。先に結婚式だな」 「幸せになりなさいね。結婚式はちゃんと招待してよね」 「おめでとう!」 私たち二人を祝福してくれた。 オリバー様は、式が先だという言葉に少し眉をひそめた。 「子づくり……」 「ええ。しましょう」 私はオリバー様にそう返事をした。 もう誰かのベッドに裸で忍び込むなんてまっぴらごめんだ。 顔を隠さなくてもいい人と、今度はちゃんと……             ーーーーーーー完--------
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