巻き戻った令嬢

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繰り返し人生の出発点は私の仕事先、伯爵家から始まる。 私はオリバー=ジューン伯爵の家で侍女として働いていた。 身分の低い下位貴族は行儀見習いで高位貴族の屋敷に働きに行く事がある。 それはよくある事で、別に不思議ではない。 今はまだ父は借金まみれじゃないし、私の給金が目当てとかではない。 私の家は爵位をお金で買った男爵家。 父は私を貴族令嬢として立派に育てたいと思っていた。 けれど、なにせ元は平民。私は貴族の立ち居振る舞いなど知らないし、淑女としての教育なんて受けていなかった。 一石二鳥とばかり、私はこの伯爵家へメイドとして預けられたのだ。 そのルートを今回も進んでいる。 「お願いグレース。今日、会えない事を彼に伝えて」 伯爵夫人は泣きながら私に頼み込んだ。 「はい。承知しました」 ええ。知っています。 夫人は真実の愛を見つけてしまったのですよね。わかってます。ちゃんと理解していますよ。 エリザベス様の願いを叶えるべく、私は公爵様の邸をこれから目指す。 しかしここで、やらなければならない面倒な事が一つあった。 夫人の部屋を後にして、長い廊下をぐいぐい進む。 伯爵家の出口に向かう途中で、伯爵の執務室を覗く。 ちょうど彼は、執務室で首を吊ろうとしていた。 実はこの状況を私は知っている。過去三度、彼を見殺しにしてしまい残りの三回は救った。 今回は救うターンだ。 「伯爵!早まってはいけません!」 私は梯子をもって執務室のドアから入ると、ハサミで縄を切った。 分かっていたから先に梯子を持ってきておいた。 勝手知ったる何たらで、私は迅速に救出に成功する。 一度目は知らずに死体を翌日発見。二度目は助けようと伯爵の両足を抱えたら余計に首が締まってあえなく絶命。三度目は死ぬ前になんとか説得を試みるも、その夜に湯船で溺死。四度目からは何とか助けた。 けれど、最後まで彼は幸せそうではなかった。 何故ならエリザベス様は浮気相手のサバエバ公爵を愛していたから。 五度目も同じ。助けたは良いけど離婚した。そしてなぜか公爵側から訴えられて、夫人に慰謝料を払う羽目になる。そして六度目、頑張って夫人の不倫をやめさせようと試みるが、伯爵は自ら強い薬を飲んで体が不自由になり寝たきりに。 七度目の今日は、もう潔く死なせてあげようかと思ったけれど、知っていて見殺しにする事はできない。 とにかく救う努力だけはしようと決めた。 だって寝覚めが悪いじゃない。
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