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「伯爵よく聞いてください。貴方がどれだけ奥様を愛していたとしてもエリザベス様はサバエバ公爵を愛していらっしゃいます。ハッキリ言ってもうどう足掻いても無理。断言しますけど絶対無理です」
「……」
旦那様は茫然として虚脱状態だ。
「というわけで、結論から言いますけど、奥様の事は見限って下さい。離婚一択です。わかります?自分の人生は自分の物です。ご自分が幸せになれる選択をして下さい」
何度も過去に説得を試みたけれど、彼は私の意見を聞き入れなかった。
だから今回も無理なんだろうけど『一応説得しました』という事実だけは残しておきたかった。
「オリバー様。もし、どうしてもご自分で命を絶つ場合ですが。そうするおつもりでしたら、どうか消息不明でお願いします」
死体が出なければきっと問題ないだろう。
残された者はどこかで生きていると思えるし、私も気が楽だ。
「消息……不明……」
事前に書いておいた『とても良い樹海』のリストを私は伯爵に渡した。
「それでは、私は予定がありますのでこれで失礼します」
頭を下げて執務室を後にした。
私だって命がかかっているんだから、正直言うと他人にかまっている場合ではない。
けれどオリバー様はまだ若い。確か二八歳だった。
命を絶つには早すぎる年齢だ。
エリザベス様は年上の妻だ。もしかしたら旦那様では物足りなかったのかも知れない。
旦那様はとてもハンサムだしお優しい方なのに気の毒だ。
◇
今日の事を思い出しながら、サバエバ公爵の奇妙に動く体から意識を反らす。
けれどなんだかネバネバしている。
こんな事で乙女の純潔を散らさなければならないなんて。
悔しくて涙が出てくる。
エリザベス様だと思って事に及ぼうとしているけど、朝になって私だと気が付いた時サバエバ公爵はどうするだろう。
計画としては初めての責任を取ってもらうべく、愛人の座を射止める。そして私の実家、男爵家の窮地を救ってもらうつもりだ。
あわよくば後妻として公爵夫人。
最悪でも『純潔奪われ代金』として慰謝料請求。
これが上手くいけば、エリザベス様との仲がこじれて、結果的にオリバー様は死ななくて済むかもしれない。
「い……いったいどういう事なの!サバエバ様!この!浮気者!」
気が狂ったような叫び声がしたかと思うと、おもいきり上掛けをはぎ取られた。
エリザベス様が鬼の形相で私たちを睨みつけた。
良かった未遂だ。
私はなぜかホッとする。
何が何だか分からない様子のサバエバ様。
ベッドの上で素っ裸の中年男は大変間抜けだ。
「君は……君はいったい何を考えてるんだ」
青い顔をしてエリザベス様の後ろから入ってきたのはオリバー様。
「どういう事なの!」
奥様はサバエバ様を怒鳴りつける。
「わ、しらん……こんな女……」
サバエバ様は呆気にとられた様子で私の方を見ている。
この世は修羅場に満ちている。
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