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巻き戻りチート
「君はいったい何を考えているんだ……」
私はオリバー様に連れて帰られた。今は伯爵様のお屋敷だ。
「何を……と言います……と?」
しらばっくれるしかない。良い言い訳が見つからない。
「君が、エリザベスの愛人と愛人関係?いや、浮気?……とにかく、君はサバエバ公爵の事を好いていたのか?父親ほど歳が離れているだろう」
「まさか!」
好きなわけないじゃない。
「ではなぜ?」
「……」
どう説明しようか困ってしまう。
もういっそ正直に言った方がいいかもしれない。
私は何度も死んで、また過去に戻ってを繰り返してるって。
今までは誰にも話してこなかった。
頭がおかしいと思われるだろうし、話したところで事態がややこしくなるだけ。未来はたいして変わらなかったと思っている。
そもそも巻き戻る時期が悪い。いつもお父様が土地を買ってしまった後なんだから。
「理由はどうあれ、これで奥様とサバエバ公爵の仲が拗れるかもしれないです。かなり奥様はお怒りになってらっしゃいました。そして……私は首ですね」
ああ……首だわ。
よく考えたら未遂に終わったわけだから、公爵から資金を引き出すことはできない。
一番最悪なパターンだ。
仕方がないから、実家の窮状だけは正直に話そう。
「実を申しますと……私の家は、広大な土地を購入しました。父は騙されたんです」
私は実家の事情を伯爵に話すことにした。
事情を知って、伯爵が助けの手を差し伸べてくれるかもしれない。
「その土地を買った男爵の借金の為に、あんなオジサンの愛人になりたかったのか?なぜ彼なんだ!」
伯爵はお怒りになってらっしゃる。
「私の家は、莫大な借金を抱える事になるでしょう。そして爵位も家も売って、果ては一家心中でございます」
「いや……それはいくらなんでも飛躍しすぎだ」
「いいえ。そうなるのです」
私の言葉を聞いて、伯爵は何か考えているようだった。
「それで君は助けを得るために公爵に抱かれようとしたのか……」
「私に残された手段はそれしかありません」
「男爵は、その土地が、豊かな実りのある地になると考えて購入したんだろう?」
その通りなんだけど、土地を何とかしようとしてはいけない。ほぼすべての人生において何ともならなかった土地だ。
一番良い方法は二束三文だろうが、あの土地を手放す事。
「父は男爵ですが領地を持っておりません。領主という言葉への憧れから土地を持ちたかったのです。けれどあそこの領地を買ったが故に、地税を国に支払う事になります。領民が一人もいない土地からどうやって税収を得るんですか」
「そうだな……農地にしようと買ったのか?開墾するのなら土壌の調査は必須だろう」
また伯爵は考えているようだった。
「地質調査も何もしなかったんです。父はあそこからダイヤが出ると思っています。そう言われて買いましたから。けれどダイヤモンドなんてどこを掘っても出やしません」
今の時点で、まだ採掘はしていない。けど、六度の人生中六回やったからダイヤがない事は分かっている。
そして作物の育たない砂、粘土、石の地質。
全てがブレンドされている土で、尚且つ森林でもあればなんとかなったんだろう。けど、まさしく草一本も生えない不毛地帯。
伯爵は立ち上がって本棚から地図を出してきた。
「君の土地はこの辺だよね?」
彼は父の土地をぐるりと赤ペンで囲った。
「ええ、そうです」
何百回もこの地図を見ている。そして穴が開くほどバツ印を付け続けた。
「笑わないで聞いてほしいんだけど、僕には特殊な能力がある。人類を救うために神が与えてくれたものだと思っている」
「あ……」
この人あぶない人だわ。
私の危険予知能力が働いた。間違いない。伯爵はちょっと頭がおかしい。
「それは信用していない眼だね。わかるよ。おかしい人だと思っているのだろう」
伯爵は自己完結してくれた。
「オリバー様。今日はもう遅いですので、そろそろ寝なくてはいけません」
奥様はそのままサバエバ様の邸に残った。
今日は旦那様はお一人だ。
好きにお過ごしいただけばいいので、私は荷物を纏めよう。
明日はこの屋敷を追い出されてしまうだろう。
「君はまだうちのメイドだろう?主人の命令は絶対だ」
「もう!いい加減にしてください。せっかく今回は生き残ったんですから。後は自分だけの幸せを考えて天寿を全うして下さい!私はもう失礼します。首ですよね?くび。わかってますから、明日の朝出て行きます」
「ちょっと待って」
伯爵は出て行こうとする私の腕を引っ張り無理やり引き止めた。
「君、愛人になる為にサバエバ公爵のベッドに忍び込んだんだよね?玉の輿目当てだよね?それで、あわよくば好きでもない高齢者の妻になろうとしたんだよね?」
何度も言わなくてもいいわよ。
「ならば、私の妻になればいい」
「はい?」
「妻とは離婚する。そして君と再婚しよう。君の家族を、この土地を、そして世界を救おう!」
何それ……、怖いんですけど。
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