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「大丈夫か?ぐらんぐらんしているぞ」
グラングラン、するでしょうそりゃ。もう夜中の三時なんだから。
「だから、イナゴにやられるんだ。わかるか?だから来年はもっと増える。再来年はもう地獄だ」
「ええ。知っています。飢饉ですね」
私は大きな欠伸をする。
「だから、皆飢えて死んでしまうんだ。飢餓状態は人口減少につながり、民をみな凶暴にする。暴動が起こり国は壊滅状態になる」
「ええ……あ~ぁ~」
いけないあくびが出てしまう。
私は睡魔に襲われて。目を開けながら眠っていた。
…………
…………死に……
……巻き戻……
「今回七度目だ」
ギョッと目を開いた。
「なんですって!」
「だから、死ねないんだよ。また巻き戻りの人生を繰り返すんだ」
「なんですって?」
「だから今回が七度目で」
「あなた!巻き戻ってるの?」
バッチリ目がさえた。
伯爵の話によると、一度目の人生は妻の浮気を知りショックのあまり首を吊った。
妻との関係を再構築しようと何度も試みたが、夫婦仲は冷めてくばかりでどうしようもなかった。
結果、妻を自室に監禁するような真似をした。
自分が情けなくて、もう人生どうでもよくなり邪魔者の自分は消えようと思ったらしい。
「けれど死んだはずなのに、前日に戻って来ていた。そしておかしいとは思ったが、死にきれない自分が情けなくてまた首を吊った。そしたらまた前日に戻っていた」
二度目の時は、ごめんなさいと心の中で謝った。
あれは助けようとして両足を持ち上げたのがいけなかったわ。
「四度目にもう死ねないのかもしれないと諦めていた。君は私を死なせまいと、いろいろ励ましてくれていたんだ。けれど、いつの間にか仕事を辞めていたね。それから三年後に街にあふれた暴徒に襲われて私は死んだ」
なるほど。四回目の時は飢饉を経験したのね。
「五回目は死のうとは思わなかったが、飢饉を何とか食い止めたいと私は思ってた。国や高位貴族らに働きかけた。このままだと食糧難がやってきて大変な事になると言った。だが、貴族たちは貧しい民が死ぬことは自分達には関係ないという考えだった」
「貴族たちは、自分たちの食料は確保していたんですね。たくさん隠し持っていた」
そうだと伯爵は頷いた。だから食糧庫が次々と襲われた。
「今回私は確認したいことがあった。この年のこの時間に生き返るのに、何の意味があるのかを。だから首を吊る真似をした」
「真似?首吊りの振りをしたんですか?」
ああ。と伯爵は頷いた。
「いつも、君が私を助けようとしていた。しかも毎回、別の方法でだ。繰り返しなはずなのに、君の行動だけは違っていた。今回はちょっとよく分からない救出劇だったが……」
伯爵は、私が同じように巻き戻っているのではないかと思ったらしい。今回それを確認するために、首吊りを自演した。
「話をしようと思っていたのに、君はさっさと屋敷を出て行く。仕方がないから妻に君の行方を尋ねた。妻の事は正直、今は邪魔以外の何者でもないんだ」
それはそれで奥様が可哀そうな気がしてきた。
私は伯爵に自分もまき戻っている事を告白する。
「私も同じ時期に戻ってます。ですから伯爵を救う事から巻き戻りの人生が始まります。けれど、飢饉により三年後に家族全員亡くなる運命でした。私は父が不毛な土地を購入して、貧しくなってしまったから死んだんだと思っていました」
金持ちの貴族は食糧難でも裕福に暮らしていた。だから自分も貴族のままでお金持ちだったら生きていられたと思っていた。
「金持ちがみな生き残ったわけではない。力が強い者と、頭の良い者だけが生き残れた。多分だけどね」
伯爵は自分も三年後までしか生きていないから、国がその先どうなったのかは分からないという。
「私は戻ってくる意味が何かあるのだろうと思っています。同じ時間に戻るので、きっと何かをこの時期にすべきなんだと思うんです」
「私もそう思う。君は玉の輿に乗るためだと言ったけど、多分間違っている」
「ええ」
伯爵と話して私は確信した。
私の巻き戻しは、人々を飢饉から救うためだ。
「私たちは救世主にならなければならない」
「伯爵!頭がおかしいなんて言ってごめんなさい。伯爵は救世主です!」
頭がおかしいなんて言ったのかと彼は苦笑いした。
「前回の巻き戻りで、私は魔法の力を得たんだ」
「えっ……」
伯爵は……やっぱりおかしいかもしれない。
「巻き戻りが始まった時は気が付かなかった。でも回を追うごとに、なんだかおかしいと感じたんだ」
「おかしい?」
「魔法が使える。僕の場合は地属性。土、土壌に対して特殊な力を使えるようになった」
彼はそう言うと、壁際に歩いていった。
壁を手で押さえると石で作られている壁の壁面がガダガタ音を立てて変形した。
そして……壁の中から見事な彫刻が現れた。
それはビーナス像だった。
「こ、これって……」
「僕は土や砂や石を好きな形に変形させることができる。土属性の魔力の持ち主らしいんだ」
ビーナス……
何より求めているものはそれじゃない感はあるけど、本当に彼には魔力があるんだと驚いた。
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