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タイムリーパー
「お、王宮?」
馬車に揺られてやって来たのはまさかの宮殿。
国王陛下が住んでいらっしゃる場所だ。
何故かオリバー様は顔パスでどんどん先へ進んでいく。
連れてこられたのは、東の離宮と呼ばれる王太子殿下の住まい。
「ここに、巻き戻りを何度も経験している者たちが集まっている。君で八人目だ」
いったいどういう事なんだろう。
巻き戻っている人たちが私以外にもいる?
「やあ。待っていたよ」
笑顔で迎えてくれた高貴な方……
まさか王太子殿下その人だった。
フェリペ王子。
いくら何でも恐れおおくて、思わずカーテシーをしたが前方に転びそうになった。
「挨拶はよい。さっそく皆に紹介しよう」
フェリペ王子はそう言って私に椅子をすすめた。
この部屋には八人の能力者。
いわゆる魔法使いがいた。オリバー様以外は皆初めて見る顔だ。
貴族らしい人もいれば、平民っぽい人もいた。特に皆は身分など気にせず、テーブル周りに座って私の方をじっと見ている。
怒っている様子ではなく、歓迎しているような笑顔で私を迎えてくれた。
私は雷を使う。まだ一度も使ったことないんですけど、使えるらしいからそういう人認定されている。
彼らは皆能力者。
火、水、風、土の4大元素魔法。それから重力魔法、空間魔法、後はよく分からない魔法など様々。
皆三年後にこの国が蝗害により、壊滅状態になる事を知っていた。
蝗害とはバッタ類の大量発生によって起こる災害のことだ。
増殖した虫は草木を食い荒らし、さらなる食料を求めて移動しながら、農産物まで食べ尽くしてしまう。
このチームのリーダーは王太子フェリペ様だった。
彼もまき戻り人生を何度も経験し、国を救うため、過去に何度もいろんな事を試したらしい。
大規模駆除や、食糧確保。
けれどどれも失敗に終わり、ここにいる全員が三年以上は生きられなかったという。
私もそうだった。
家が没落して私は死んだと思っていたけど、そうではない。直接の原因は飢餓だった。
玉の輿に乗り、お金持ちと結婚すれば何とかなるという、浅はかな考えしかなかった自分が恥ずかしい。
一度にいろんな事がありすぎて頭が混乱していた。
ここに集まった八人は巻き戻り人生を繰り返していて、巻き戻った人たちは全員魔法の力を持っている。
私たちが巻き戻りを繰り返すのには理由があり、それは三年後に起こる国家滅亡を食い止めるため。
正直、皆三年以降の記憶がないため、滅亡したかどうかは定かではないようだ。
けれどやるべきことは一つ。食糧難にならないよう対処する事。国民を飢餓から守る事。
「グレース。私たちは今度こそこの国を守ってみせる」
フェリペ王子は私にそう告げた。
もう何度も巻き戻っている人たちは、私の知らない間に計画を立てていたらしい。皆、今の時間軸に来てからひと月ほどしか経っていない。
けれど、もう何年も前から知り合いだから皆は仲が良かった。
私は新参者。とにかく話を聞いている事しかできず、質問はできなかった。
蚊帳の外な感じがしたけど、その都度分かりやすくオリバー様が私に説明してくれた。
相手の理解度に合わせた適切な言葉選びが秀逸なので、今までの私の彼の評価は間違いだったと感じた。
被害を食い止めらるため、私たちは準備を整える。
「大丈夫。貴方はまだ自分の力の使い方も分からなくて、不安なのよね。私に任せて!」
綺麗な女性、マチルダ様が私の魔法の指導にあたってくれるらしい。
過去に何度も新しい仲間の魔法の指導をしてきたようだ。
彼女は私たちの事をタイムリーパーと呼んだ。
巻き戻り人生を終わらせ、皆天寿を全うする事。
三年以上生きる事。
オリバー様が言ったように、私たちは世界を救う為に集まった。
やはり私たちは神に選ばれた救世主なのだろう。
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