二人の生活

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二人の生活

「君は料理も作れるんだな」 「ええ。男爵令嬢といっても元は平民ですので、結構何でもできます」 食料や水は十分用意されていた。後は簡単な調理をすれば二人でひと月は暮らせるだろう。 私はハムとサラダを、焼いたパンに挟んだサンドウィッチそれと豆のスープ、リンゴのタルトタタンを食卓に並べた。 「これは……冷えているけど、どうやって冷やしたんだ?」 「私は雹を降らせる事ができます。雹は塊で落ちてくるものもあって、それを木箱に入れて食材を冷やせるんです」 「そんな器用な事ができるんだ。凄いな」 いろんな魔法を試しているうちに、雷魔法の凄さを知った。 天気も操れるし、電気も操れる。 攻撃に特化した魔法かと思っていたが、使い方によっては生活魔法にもなる。 私たちはこんな僻地にいるにもかかわらず、贅沢な食事ができた。 結構楽しいと思った。 「社交界デビューはしたのか?」 「一応……」 一応はしたけど、あまりいい思い出はないわね。 成金の男爵令嬢だし、高貴な方々は相手にしてくれなかった。 別に私個人としては気にはならなかった。けど、友人がいない私の事を心配していた、お父様とお母様には申し訳なかった。 「ダンスとか、綺麗なドレスとか。社交界のお付き合いとか。私にはむいていませんでした」 そうかとオリバー様は相槌を打った。 「全てが終わったら、私が夜会に連れて行こう。良ければだが」 一人称が僕から私に変わった。 旦那様としてしか見ていなかったから、急に貴族の伯爵様なんだと意識してしまう。 「オリバー様はエリザベス様の事はもういいのでしょうか?あの時は命を絶とうとまで考えていらっしゃいました」 「最初はそう考えるくらい彼女の事が好きだった。けれど繰り返しの人生が始まってからは、彼女の事はどうでもいい存在になっていったな。そもそも彼女は僕を愛していなかったからね」 確かに最初の巻き戻りから考えると、十年くらいはエリザベス様の不仲な状態、もしくは離婚した状態だった。 流石に百年の恋も冷めるわね。 「私は、君と子供をつくるつもりだよ」 ……へ? 私がキョトンとした顔をしたので、オリバー様はくすりと笑った。 「老婆が言っていただろう。君の子が緑の大地の女神の加護を受けるって。五穀豊穣だと言われたろう」 「確かにあのうさんくさ……いいえ。あの老婆は言っていました。けれどあの人は信用できるのでしょうか?」 ただの強欲お婆さんにしか見えなかった。 「雷魔法の事も教えてくれただろう。彼女の言葉は真実だ。なにより五穀豊穣というのはとても明るい未来の話だ。彼女が間違えた事を言わないのは皆が知っている。今までの巻き戻りの人生で、彼女が真実を語らなかった事はない」 私が子供を産んで、その子のおかげでこの国が緑豊かな地になるという事だ。 それが事実なら、私たちの今回の計画はうまくいく。 「いつか分からないけれど。君は子を産み、そしてその子の加護の元この国に幸せが訪れるという予言だよ」 そんな聖母マリアみたいな存在だったの?私? 眉唾物だなと考えながら相手がいないじゃないと思っていた。 「君は、サバエバ公爵の後妻になろうと計画していたよね?」 「まぁ……はい。あの時はそう考えていました。浅はかですけど、玉の輿こそが生きる道だと思っていたので」 「ハハハ。それならば、相手は僕でもいいんじゃない?私としてはそのつもりだよ」 急にそんな事を言われて、ドギマギしてしまった。 オリバー様を今まで一度もそんな目で見た事はない。 意識していなかった存在が急に姿を変えて、子づくりの相手と化してしまうとか…… いや、流石に急展開すぎて何も考えられない。 というか、オリバー様とこれから二人で寝泊まりする事になるのかと思うと身の危険を感じる。 もうオリバー様が野獣に見える。 どうする私…… 「実はこの土地の権利を得る段階で、男爵には君の話を通している」 「……お父様に?」 「私は妻と離婚して今は独身だ。しかし結婚歴がある。それに私は公爵ではなく伯爵だ。やはり不満か?年齢的には君と八つしか変わらないが駄目だろうか」 あの父なら、きっと喜んで娘を嫁に出すだろう。なにせ爵位が大好きだ。 私を高位貴族と結婚させようと、お見合いの話をいろんな貴族たちに持って行っていた。 けれど皆平民上がりの男爵を馬鹿にしていたし、自分の家よりお金があるお父様の事を成金だと陰で笑いものにしていた。 凄く悔しかったけど、爵位に憧れがある父には何も言えなかった。 「私の実家は荘園を手掛けて財を成しました。全て、貴族のマナーハウスやカントリーハウスの仕事でした。父は自分も依頼する側になりたいとずっと憧れていました。いつか誰よりも大きく、立派な荘園を持つというのが夢なんです」 お金で立派な庭園を造る事はできる。 でも問題があった。 「それで男爵位を買ったのか」 「はい」 貴族にしか王都の広大な土地は与えられない。そう決まっていた。 「そうだな……いくら金があっても、法律で平民は王都に土地は買えない事になっている」 「だから伯爵様との縁談は父にとっては喜ぶべき話だったのでしょう。男爵よりも位が高いですし、何より私は他に貰い手がありませんでしたから」 「グレース。君は若くて美しい。それに頭もいい。何でもできるし、多分社交界に顔を出せば、令息たちが黙っていないと思う。だけど、私を選んでほしい。必ず幸せにすると約束する」 伯爵は真剣に私にプロポーズしてくれた。 そんな事は生まれて初めてで、綺麗だとか美しいなんて言われたことがない。 「あの……近いです」 至近距離過ぎた。 かなり強引な距離の詰め方だ。 「あ、すまない。つい、調子に乗ってしまった」 ハハハと笑って彼は恥ずかしそうに頭をかいた。 「とにかく、今はイナゴの事を何とかしましょう。全てが終わってから話をしませんか?」
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