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「みっちゃん」
渡り廊下からウキウキした声が聞こえてきて
私とおそらくみっちゃんであろう藤原君は箸の手を止めた。
翌日の朝、お手伝いさんが運んでくれた朝ごはんを食べている時だった。
「ああ、二人共立ち上がらなくて良い、話を聞きにきただけだから」
大人しく座って食べ続ける。
藤原君は昨日の夜の出来事を流れにそって説明した。
本当だ、松平次長が目の前にいる
ここは彼の家で奥さんはあきこさんなんだ。
そしてまた、松平次長は藤原君のおじにもなるんだね。
話は佳境に入る。
誰にも知らせていなかったのに
何故か鰻屋の前で店の人に断られていてもずっと店の前にいるから店の人が警察に通報してその場を離れた隙にタクシーで移動してここまで来たと言う事。
「そうか、さっきあきこからも聞いて
理解は出来るんだが腑に落ちない
彼女はどうして鰻屋にたどり着き、
確信を持ってそこに居続けたんだ?」
その時、さっき朝ご飯を運んでくれた人が
スーツらしきものを持って現れた。
昨日、藤原君が着ていたものだろうか。
「旦那様、先程クリーニングを頼みに行きましたら中ポケットからこんなものが…」
それは丸くて小さな球体だった。
パッと見、何かわからない単なる部品に見える。
「こちらはGPSではないかと」
えっ、つまり坂本さんはこれを使って藤原君の場所を突き止めてたって事?
再び背筋が凍る。
ひぇぇ…倒れても倒れても起き上がるゾンビみたい、坂本さん強すぎるよ。
「なるほど、これで位置を確認していたのか。
彼女は今どこにおるのか。
もしかしたら既にこの家の前にいるのかもしれない。
家の者には今日は外出を禁ずると伝えてくれ」
「かしこまりました」
「こういうのは初めてか?」
「いえ、昔から似たようなのはいくつかありましたが、会社では初めてです」
そうなんだ。昔から居たのか。
こんなのが…人間不信になりそう。
「まあのう」
松平次長は藤原君の頭をガシガシとなでた。
「お前は昔から周りから可愛がられて、何か起こっても、かばってもらったり、助けてもらえたり、なんでも周りの人間が先んじてやってしまうからのう。
今まではそれでのんびりと暮らして来れたかもしれしれない。
だが自分と一緒にいる人はそうとは限らない。その時は自ら助けたり、守りにいかないといかんぞ」
「はい」
藤原君はニコニコと返事をした。
本当仲良いな、この二人。
まあ、小さい子供の頃の藤原君なんて見てたら、
めっちゃかわいいよね。
私も
「おばちゃん」
とか言われたら可愛すぎて死ねる。
食事を終え、母屋にいるあきこさんに挨拶にいってみんなでお茶を飲んでいたら、
「不審な人物が家の周りををうろついているようです、どうされますか?」
やっぱりいたんだ。
警察に連絡して連行してもらうようにお願いした。
昨日の今日だからさすがに坂本さんも言い逃れは出来ない
後、少し
私は安堵のため息が出た。
天気も良かったので、庭にでる。
藤原くんとあきこさんと次長は仕事の話をしていた。
私は来週明けには派遣終了で私をもうあの会社には行かなくなる。
なんやかんやと濃い2年だったな。
なんてぼんやりしていたら
人の言い争う声がした。
見ると、通いのお手伝いさんらしき人が門扉のあたりで揉めている。
中に無理やり一緒に入ろうとする人物…坂本さんがいた。
坂本さんはお手伝いさんらしき人を突き飛ばした。
「だめ!」
私は走って坂本さんに体当たりすると一緒に外に出て玄関のドアを閉めた。
「鍵をかけて、助けを呼んで下さい!」
ふらふらと坂本さんは立ち上がった。
「あんたのせいよ!」
私をギロリと睨みつける。
「あんたさえいなければ、私と藤原君は上手く言ってたのよ、二人の間に割り込んで来たの。わ!か!る!?」
「ちっ違うでしょう、私が赴任した時はあなたは既にストーカーで自宅謹慎中だったわ!」
「何!私に逆らおうって言うの!?」
坂本さんは私の何も持たない方の手をグッと掴むと思いっきり体を引き寄せる。
坂本さんの目はもうギラギラしていて全く正気に見えない。
彼女はもう片方の手をふりあげた。
殴られるやつだ、これ。
「この尻軽女が!」
私のどこに尻軽の要素があったのか全く
解せないが坂本さんの怪力に私は抵抗出来ず、目をつぶった。
ばしぃぃ~ん
ものすごい耳の痛い音がした。
あれ?でも痛くない。
ぎゅっと閉じていた目を
開けるとそこには平手を打たれ、吹っ飛んだ坂本さんと私の盾となり守ってくれた(多分、一発平手打ちをかました)藤原君とパトカーからバラバラと警察が誰も逃がさぬように陣を張っていて
坂本さんに藤原君は話していた。
「君は初めてあった時から、
すぐ触って来ようとするし、
変に噂を流そうとするし、
正直気持ち悪くて仕方なかった
それでも我慢していてのは被害が僕だけで済んでいたからだ。
でも君は大切な人にまで…」
「藤原君のお手が私の頬に…幸せ」
坂本さんは頬を打たれて顔を腫らしているのに恍惚とした表情で言った。
何?
気持ち悪い
何なの、これ
坂本さん?ゾンビ?
もう無理
私は、その場で意識を失った
とその時は思ってた
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