第27話 夏の力

2/87
前へ
/221ページ
次へ
「お買い物に行こう!」 「いいよ。何か欲しいものがあるの?」 「水着!」  夏らしい単語が出てきたけれど、私は完全に他人事のつもりで聞いていた。  水着なんてもう何年も着ていない。 「なに、海にでも行くの?」 「行けたらいいんだけどねぇ。でも、まずはこっちで我慢」  こう言って、カナンは自分のスマホを操作し始めた。  その様子を見ながらアイスを食べる。 「ほらほら!」 「近い近い」  目の前にスマホを突きつけられて、私はアイスを一度床に置いた。  カナンからスマホを受け取り、画面に表示されたインターネットのサイトに注目する。 「プール?」 「そう。昨日、ゼミでそこの話題になったんだ」  カナンは現在大学三年生で、確か昨日で前期の授業が終わったと聞いている。  カナンが自ら大学の話をしてくることなんて滅多にないから、私はちょっとだけ意外に思いつつも、なんとなく嬉しい気持ちになった。 「新しくできたんだね。じゃあ、そこに行くために水着を買うんだね?」 「そう。あたし、スクール水着以外持ってないからさ」  私はそれさえ持っていない。  それは一人暮らしを始めたからではなく、実家にもない。  水泳はあまり得意じゃないから、高校を卒業してすぐに処分した。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加