蠱毒症候群

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目が覚めたら、監禁されていた。 大きな扉があるだけの部屋にいた。 扉が開くなんてことはなく、固く大きな扉はなにがあってもびくともしなそうだ。 しかし監禁されたというのに、拘束の類いは一切されていない。 一体、誰がこんなことをやったのか。実は思い当たる節がある。 その時、押しても引いてもびくともしなかった扉がキィっと耳障りな音をあげて開いた。 その先にいたのは、やはり。 最近仲良くなったばかりだが、随分と気を許していた知人、ハッツだった。 「ごめんねぇ〜ルイスせんせー。ぜーんぶ俺がやったの。」 後ろ手に扉の施錠をしてから、おどけたように両手を広げて肩を竦め、ハッツはそう吐き捨てた。 まるで悪役気取り。 お前は俺のせいで不幸になったのだ、とでもわざとらしく主張するように。 ふざけるな、と叫びたい気分だった。 こいつが言いたい『全部』というのはおそらく、俺を都合の良い駒にするためにした細工のことだろう。 俺が医者になろうと決意したこと。 学院内で教授達から嫌がらせを受け、勉強する時間が取れなかったこと。 ありもしない不正で医者の資格試験に落ちたこと。 それでも医者の道を諦められず闇医者になったこと。 頃合いを見て、俺に接触してきたこと。 そのどれもにハッツが関与して、手引きした結果なのだとしても。 それでも、なにがあろうと医者になるという決断は、結局俺自身で決めたことだ。 それに、最悪のパターンを考えなかったわけがない。 いきなりバーの隣に座っただけの奴とあんまりにも話が合いすぎると警戒だってする。 だからこんな未来も予想はついていた。 ハッツが俺を完全に法の及ばない世界へと引きづり込もうとしている未来が。 最初から俺を利用しようと懐に入り込んでいるだけの未来が。 それでも、そんな未来だったとしても。 お前を信じていいと決めたのだから。 だから、他でもないお前が、俺の選択を否定するな。 ふざけるなよ。許すかよ。畜生。 でも、ここで怒鳴ったらきっとこいつの思う壺だから。 それだけは、絶対に絶対に、嫌だから。 「はっ。バーーッカ。」 胸ぐらを掴み上げて、精一杯の侮辱と恨みを挑戦的な笑顔を押し込んで、鼻で笑ってやった。 全部がお前の思い通りになんて、いかせてたまるかよ。
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