1.スイーツ男子?

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「いらっしゃいませ!」 笑顔で迎えてくれたのは、ジィさんの孫、透くんの嫁さんの咲月(さつき)さんだ。現在二人目妊娠中とかで、先月から引退したバァさんが手伝いに来ている。今日はいないのかなと思ったら、咲月さんの後ろから一回り小さくなったバァさんが顔を出した。 「いらっしゃい、剛ちゃん。咲月ちゃん、私がやるわ」 「有り難うございます」 狭い店内には珍しく若い男性客が一人いた。 バァさんはゆったりとした手つきで月替わりのケーキとバタークリームをたっぷり使ったケーキを銀色の小さなトレーに乗せる。スーツ姿で小綺麗な感じの男性客は、その様子をじっと見ていた。 「剛ちゃんは本当にこのバタークリームのケーキが好きね」 「ええ、まあ。もう好きというか、定期的に食べないと落ち着かなくて」 そう、俺はカトレアで昔から売られているこのバタークリームのケーキが大好きなのだ。先代のレシピを忠実に守り作られた味は、幼い頃に食べた味そのもの。 「月替りも、毎月買いに来てくれて有り難う。いつも発売日に来てくれるから、透くんも『今日は室町さんが来るから』って張り切って作ってるのよ」 「はは……」 見ず知らずの客の前であれこれ喋られるのは、少し恥ずかしい。思わず顔が赤らんだ。 ただでさえ、こちらは仕事帰りの汗臭い作業着姿なのだ。しかし、工場から一旦帰ってシャワーを浴びて着替えていたら店が閉まってしまう。昔馴染みという事に甘え、恥を忍んで買いに来ていた。 ふと視線を感じ横を見ると、先客の男性がこちらを見てニコリと笑い、ショーケースを指差す。 「僕も同じものを」 「かしこまりました!」 再びこちらを見て微笑んだので、小さく会釈し曖昧に微笑み返す。 「はーい、剛ちゃんお待たせ。780円ね」 「はい」 ショーケースの上に、ケーキが2つ入った小さな箱が置かれた。俺は財布から千円札を出してバァさんに渡す。 「バタークリームのケーキ、僕も好きなんです」 「えっ」  不意に話しかけられ、ビクリと肩が揺れた。 驚き顔で男性を見ると、彼は穏やかに笑っている。 「月替わりも美味しいですよね」 「あ、ええ…」 お釣りを貰いながら反応に困っていると、咲月さんがニコリと笑って口を開いた。 「門倉(かどくら)さんも、『スイーツ男子』なんですよね!」 すると門倉と呼ばれた男性は照れ臭さそうに頬をかいた。
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