1.スイーツ男子?

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「スイーツ男子?」 初耳だ。 俺が首をかしげると、咲月さんが説明してくれた。 「室町さんや門倉さんみたいに、甘いものが好きな男の子って意味ですよ」 「いや、もう俺男の子って年齢じゃないし…」 「僕ももう三十路も半ばを過ぎた歳で…」 二人してタジタジ、となって答えると咲月さんは可笑しそうに笑った。 「そうですか?お二人とも、ケーキを見ている時の顔はまるで少年みたいにキラキラしてますよ?」 「「えっ」」 思わず隣にいた門倉くんと顔を見合わせた。 「スイーツ男子仲間ですね!」 満面の笑みで見送られ、困惑しながら二人して店を出た。 「あの、」 さぁ帰ろうと歩きだすと、門倉くんに呼び止められ振り向く。 「僕の周りに甘いものが好きな男性(ひと)ってあんまりいなくって……良かったら、友達になって頂けませんか?」 「えっ」 驚いて目を見開くと、門倉くんははにかみながら言葉を続けた。 「僕、オシャレなカフェとかは苦手なんですけどスイーツが好きで……テイクアウトして家で食べたりお取り寄せしたりしてるんです。美味しいし、楽しいんですけど…共有できる仲間がいたらいいなってずっと思っていました。だから」 「そういうのは彼女とかに頼んだら……」 「いないんです」 「え!」 素直に驚いた。門倉くんは控え目に言って今風のイケメンだ。てっきり、引く手数多だと思った。 「僕の趣味がスイーツ巡りだって知ると、女々しいってガッカリする女の子が多くて……」 寂しそうに笑う顔を見て、胸がぎゅっとなった。 俺自身、見た目と好きなもののギャップに幻滅された過去があるからだ。ゆえに、この歳でも独身な訳だが。門倉くんの気持ちが、痛い程分かる。 「…………そっか。俺で、良ければ」 気付いたら、そう言っていた。 すると門倉くんの顔がパァッと明るくなる。 「本当ですか?!嬉しい!有り難うございます!僕、門倉です!門倉祐樹(ゆうき)って言います!」 「……俺は、室町剛。宜しく。門倉くん」 彼はぎゅっと俺の手を握った。 「宜しくお願いします!室町さん!」 それから互いに連絡先を交換し、帰路に着いた。 帰宅してシャワーを浴びてから珈琲を入れ、バタークリームのケーキをほおばる。 珈琲を含んだ後の熱い舌の上でスッと溶けるクリーム。口内に広がるバターの芳醇な香り。そして、喉をゆっくりと落ちていく咀嚼された甘いケーキ。 恍惚として目を閉じる。 「バタークリームのケーキ、僕も好きなんです」 彼も今、同じようにこのケーキを食べているのだろうか。食べながら、何を思っているのだろうか。 ……俺を、思い出したりしているのだろうか。 そう思った途端、どうしようもなく悶々とした落ち着かない気持ちになり、珈琲を口に含む。ケーキを食べた後の口で飲んだブラック珈琲は、仄かに甘かった。 ……きっと、この落ち着かない気持ちはケーキのせいだ。 だからと言ってバタークリームのケーキが好きな事に変わりは無いし、ケーキに罪はない。 もう一口ケーキを口に運ぶ。 「美味いなぁ」 スイーツが好きな人に悪い人はいない。 人懐こそうな彼の笑顔に好感を持った。 「門倉祐樹くんか……」 呟いた言葉はバタークリームのケーキように 甘くゆっくり喉を落ちていった。 おわり
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