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嵐山龍馬は子どもの頃に読んだ昔話を思い出した。鶴の恩返し、怪我をして助けられた鶴も恩返しでお爺さんやお婆さんの家の扉を叩いた時はこのような心持ちだったのだろうか。
(なにを恐れる事がある!今の私は酒に呑まれてなどいない!)
正常な機能ならば色々な面で問題は無いだろう。
(取り敢えず平伏して謝罪しなければならない!)
震える指でインターフォンを鳴らしたが1回、2回と反応が無かった。これはまた間が悪く不在なのだろうと踵を返したそこで応答があった。
「はい、どちら様ですか」
「あの」
「あっ!嵐山さんですね」
「はい」
「ちょっと待っていて下さいね!」
如何やらモニター付きのインターフォンだった様だ。緊張し上擦った声で名乗る必要が無く安堵した。施錠が解かれる迄に息を深く吸って吸って吸いすぎて咽せた。
(私よ、落ち着け。大丈夫だ、なにも問題は無い!)
「お待たせしました」
「こんばんは、先日はとんだご迷惑をーーー!」
由宇は風呂上がりだったらしく濡れた髪、上気した頬、Tシャツとショートパンツから伸びた手足はうっすらと桜色をしていた。鶴は恩返しをする前に回れ右をして脱兎の如くこの場を去りたい衝動に駆られた。
(神よ、私を試されているのですか!?)
「こちらこそ先日はなんのお構いもせずにごめんなさいね」
「いえ、十分良くして頂きありがとうございました」
由宇は嵐山龍馬がなにを言わんとするのか首を傾げたが立ち話もなんですからどうぞと部屋に招き入れた。
「申し訳ございませんでした!」
リビングに通された嵐山龍馬は突然床に額を付けて謝罪の言葉を述べ始めた。珈琲の準備していた由宇はその姿に仰天した。
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