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嵐山 龍馬
黒と白で統一された無機質なリビングルーム、黒いソファで向かい合う2人の男女、男性は白髪混じりの髪をオールバックに撫で付け銀縁眼鏡を掛けていた。手元には飲みかけの赤ワイン、そして印鑑に朱肉。
「本当に良いのか」
女性は贅沢なまでの栗色の巻き髪にプラチナのピアス、そして身体のラインが見て取れる細身の黒いワンピースで脚を組んでいる。手元のワイングラスは飲み干され雫一滴も落ちる気配がない。
「良いわ、あなたへの慰謝料300万円キャッシュで差し上げるわ」
かなり酔いが回った面差しで女性は銀行の封筒を3袋積み上げた。それを見下ろした男性、嵐山龍馬は唇を噛んだ。
「ーーー教えてくれ!」
「なによいきなり」
「俺の何処が悪かったんだ!」
女性は巻き髪を指に絡めると脚を組み直した。
「見栄えは良い、外資系企業勤務、御坊ちゃま、あぁ、学歴も高いわね」
「非の打ち所がないだろう!」
「その生真面目で神経質なところが耐えられないのよ」
「生真面目!」
「毎日、お財布のお釣りの残高を照らし合わせるところとか!」
「神経質!」
「もやしのひげ根を1本1本取るところとか!」
女性は髪の毛を掻きむしって息を荒くした。嵐山龍馬はため息を吐くと腕を組んだ。
「それが理由で不倫したのか」
「あーーー、あなたあっちも生真面目すぎて飽きたの」
「あ、あああああっち!」
「額に口付け、頬、唇、そこから首筋、次は胸、お決まりのコースで挿入から絶頂まで毎回15分!体内時計でも仕込んでいるんじゃないの!」
「15分測ってたのか!」
「暇だしぃ」
その辛にくい顔を見た嵐山龍馬は激昂し怒りに任せて婚姻届に印鑑を捺すとクリアファイルに挟み茶封筒に入れてテーブルに叩き付けた。
「なに」
「出してきてくれ」
「いやぁよ、忙しいもん」
「なにが忙しいんだ!」
「明日からダーリンと沖縄旅行だもん」
こうして嵐山龍馬は2度目の離婚経験者となった。
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