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嵐山龍馬を見送った由宇は白い割烹着に袖を通しながら頬を染めた。自分でも驚く行動力、気が付けば彼の唇に自身の唇を重ねていた。ふわりと薫る日本酒、男性にしては珍しくオーデコロンではなく石鹸の匂いがした。
(あれは牛乳石鹸青箱の匂い!)
嵐山龍馬は清廉潔白な人柄であると由宇は感じた。
(ーーーふふ、あの時の慌て様ったら)
嵐山龍馬は不確かな一夜の過ちを謝罪し額を床に擦り付けた。しかも相手は子持ちの女性でその子どもが直属の部下だと知った時の慌てふためき様は見ものだったと源文は腹を抱えて笑った。
「あいつ、俺の父ーちゃんになるつもりじゃね?」
「まさか会ってまだ1週間なのよ」
「出会って10秒で一目惚れするって言うじゃん」
「一目惚れ、ねぇ」
そして今夜は源文を呼び出し自筆の離婚届を見せ本気の度合いを証明して見せた。繊細な問題に対して真摯で実直、そう言えば左の薬指に結婚指輪は無かった。
(それに)
たった一度訪れた居酒屋の一輪挿しに気付く客はそうそう居ない。しかもこの店に似合う一輪の桔梗の花。
(部長を文鳥だと思っていたけれどあれは訂正するわ)
シンクの中で泡立てたスポンジ、此処しばらくの醜い汚れが排水口へと流れて消えた様な気がした。
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