金曜の夜

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金曜の夜

 ごくりと唾を飲んだ。 心の声A(居酒屋に入るだけでこの気合いはなんだよ) 心の声B(そりゃそうよ) 心の声C(一念発起) 心の声D(一念勃起やろ) 「あぁ、兄ちゃん退いてくれ」  店先でうろついていると狸の様な体格の男に押し退けられた。昨夜閉店間際まで居座っていた客だった。 「あら、権蔵さんまた来たの」 「彼女の店に通ってなにが悪いんじゃ」 「あらまぁ、それは失礼しました」  和やかな雰囲気が伝わって来るが源文(もとふみ)が言うにはこの権蔵は由宇に懸想している「ぶんぶん」煩い害虫らしい。これまでは源文が店に顔を出し追い払って来たのだが、 「これからはお父さんが追い払ってくれると僕、助かります(遊べます)」  と目を潤ませた。 (お、お父さん!源文、お父さんに任せなさい!) 心の声一同(源文に使われてるだけじゃん)  嵐山龍馬はビジネスバッグを胸に抱え躊躇(ためら)いながら簾暖簾(すだれのれん)を挙げたが金曜日の夜という事もあり店内は大盛況でカウンター席は既に埋まっていた。 (くっ、くそっ!)  定時退社で一目散に走って来たのだがこの有様、客の年齢層は50代後半から70代、80代、暇そうな高齢者が大半を占め開店と同時に入店したのだろう。その中には「ぶんぶん」煩い狸の権蔵と、狐の笹谷も居た。 心の声A(じじぃ共に勝てる気がしない) 心の声B(あっ!) 心の声C(手を、手を握っている!) 心の声D(てめぇ口から手ぇ入れて奥歯ガタガタさせるぞ!) 心の声B(それは思いすぎですよ)  すると「あら、嵐山さん」由宇が微笑みながら手招きをした。
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