離婚届

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「名前は!」 「んーーと、ゆう、結城さん?」 「馬鹿!なんで勝手に出るんだよ!」 「あらぁ、この部屋の半分はまだ私の家なんだから自由じゃない」  嵐山龍馬は慌ててジーンズに着替えると部屋を飛び出した。エレベーターホールのボタンは既に1階に降りていた。 「くそっ!」  部屋に戻り携帯電話を握ったが由宇がその呼び出し音に応える事は無くそれは虚しく響くだけだった。 「くそっ!」 「なぁに、今の人が新しい恋人なの?」 「そうだ!」 「ごめんなさいねぇ」 「くそっ!」   ーーー2週間前の金曜日  2番目の妻は高級クラブのオーナーだった。嵐山龍馬はクラブの黒服に金を渡し、オーナー()がロンドンから帰国して店に顔を出したら知らせて欲しいと手を回していた。そこで2人は再会した。 「私たちまだ夫婦なのね」 「そうだ」 「じゃあ暫く付き合ってよ、付き合ってくれたら離婚届にサインするわ」  妻は唇を尖らせて頬を膨らませた。 「新しい相手はどうしたんだ」 「それがさぁ、若い男って我儘(わがまま)で駄目だわ」 「別れたのか」 「やっぱり龍馬が良いわ」 「そ、そうか」  元来、憎しみあって離婚話に至った訳ではない男と女が酒を飲めばその勢いでベッドに倒れ込んでも仕様がない。嵐山龍馬もひとりの男、据え膳食わぬは男の恥とばかりに由宇に指南され身に付けた技術を駆使して2番目の妻を虜にした。 「恋人がいるんでしょ」 「なぜ」 「そんな気がする」 「そ、そうか」 「セックスが上手くなったもの手放すのが惜しいわぁ」 「なにを言っているんだ」  そして2番目の妻は駄々をこね始めた。 「ねぇ離婚前に他に女を作るのってどうかと思わなぁい?」 「そ、それは!」 「い・け・な・い事よねぇ」 「そ、それは!」  結果、嵐山龍馬は慰謝料300万円から50万円を返金する羽目になった。そして印鑑を捺すからと彼女はブラウスのボタンを外した。 「じゃぁもう1回しましょ♡」 「あと1回だけだぞ」  そこにタイミング悪く由宇が訪ねて来た。これはもう言い逃れが効かない状況だった。嵐山龍馬は動揺し頭を掻きむしった。
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