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戸籍住民課
雨の金曜日、新緑が眩しい季節広坂大通りに赤や青の傘が咲く。葉桜の並木を歩いて来る和装の女性は金沢市役所の自動ドアを踏んだ。ただ、戸籍関係の手続きはどの窓口ですれば良かったかそれは20年も前の事で忘れてしまった。
「どうなさいましたか」
市役所職員に声を掛けられ「離婚届を提出するには何処に行けば良いのか」と尋ねると一瞬、気の毒そうな顔をされた。
(そうよね、50歳間際の離婚なんて最悪よね)
由宇はそれでもあんな男と縁が切れるならば良しとしようと気を取り直し職員に微笑んで見せた。
(浮気と賭け事、借金癖は治らないっていうもの!)
25年連れ添った元夫は居酒屋経営(水商売)という事で浮き草の様な男性だった。浮気は度々、競馬も少々、それでも憎めない気質で長年連れ添って来た。それがまさか52歳にもなって離婚を言い出すとは由宇にとって青天の霹靂だった。
「あぁ、離婚届の提出でしたら戸籍住民課ですね。あちらで番号が書かれた紙をお取り下さい」
「ありがとうございます」
由宇が手に取った番号は88番。
「あら、縁起が良いわ」
88番、漢字で表すところの八、由宇は縁起を担ぐ方では無いがこれは末広がりで第2の人生に期待が持てた。
(あら)
そして待合のベンチに腰掛け隣を見遣った。
(まぁ、素敵な方だこと)
それは白髪混じりの髪を後ろに撫で付け濃灰のスーツに深紅のネクタイを締めた如何にもロマンスグレーを体現した様な男性だった。
(銀縁眼鏡がお似合いね、でもちょっと神経質そう)
手元には薄茶の枠の婚姻届、男性の推定年齢は50代前半。その歳で結婚するのかと考えたところで「あぁ、1人ーーーいるわ」26歳のピンクちゃんと再婚した元夫の腑抜けた顔を思い出し気分が悪くなった。
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