離婚届

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 開店時間前だったが営業中の札が掲げられ赤提灯には明かりが点いていた。嵐山龍馬が簾暖簾を挙げるとその音で「あら、権蔵さん。まだお店は開いていないわよ」由宇は鍋に落としていた視線をこちらに向けた。 「あ、のゆう」  由宇の顔色が一瞬変わった。然し乍ら水商売の女性らしく「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えられた。そこにはこれまでにない距離を感じた。嵐山龍馬はどう声を掛けて良いものか戸惑った。 「どうぞ、お掛けになって下さいな」 「あ、はい」  桔梗の花を手渡そうと横目で見遣るとそこには白磁の一輪挿しが寂しげに置かれていた。この2週間、1度くらいは店に顔を出す事も出来た筈だ。自分が由宇に対して甘えていたのだと心から悔いた。 「桔梗の花、持って来ました」 「あらまぁ、ありがとうございます。生けますね」  白磁の花瓶は埃を被っていた。由宇はそれを布巾で拭い取ると青紫の桔梗をカウンターの端に飾った。 「いつもありがとうございます」 「あの、ゆ」  由宇さんと声を掛けるタイミングで数人の客が入店した。予約の客だったらしく嵐山龍馬は一番端の席に追いやられ、由宇と言葉を交わすタイミングもなくお猪口2杯の日本酒をちびちび呑み、蕗と油揚げの煮物を摘んだ。 心の声A(美味くないな) 心の声B(味がしませんね) 心の声C(自業自得) 心の声D(これガン無視だよな) 心の声一同(ーーーですよねぇ)
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