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流石に居た堪れなくなった嵐山龍馬は「お勘定お願いします」と席を立った。
「1,550円になります」
「じゃ、これで」
「450円のお釣りになります、またいらして下さいね」
その微笑みが仕事上のものであると感じ胸が締め付けられた。いつかの夜は「お代はこれで」と由宇に唇を奪われたがそれも遠い昔か幻の様に思えた。嵐山龍馬は年甲斐も無く店の軒先に座って暖簾が下される時間を待った。
「なんだあれ」
「酔っ払い?嫌だぁもう」
「いい歳して恥ずかしくねぇの」
何組かのグループやカップルが嘲り笑い指をさして通り過ぎたがそんな事はどうでも良かった。ただ夜風はまだ冷たくコンクリートは尻を凍えさせた。
(何時だ)
腕時計を見たが金曜日の夜はまだこれからという時間をさしていた。そこで声を掛けられた。
「あれ、部長、入らないんすか」
「も、源文くん」
心の声A(ぎゃーー!でた!)
心の声B(これは腹を括るしかないですね)
心の声C(フルボッコ確定)
心の声D(ーーーーー)
心の声B(あれ、Dさん?Dさん?)
心の声C(あいつ逃げやがったな)
源文は平生とは異なるものを感じ取った。1週間程前から母親の様子がおかしく如何したのかと尋ねても歯切れが悪い。そして目の前には私服姿で締まりの無い面持ちの母親の恋人が店先に座り込んでいる。
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