花束

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花束

 嵐山龍馬の手にはクリアファイルに挟んだ住民票があった。 「離婚届のコピーは頂けませんか!」 「お引き取り下さい」 「こっ、戸籍謄本は!」 「1週間後にお越し下さい」  本来ならば戸籍謄本を持参したかったのだが戸籍住民課の窓口で取得まで1週間を要すると言われた。そこで苦肉の策、住民票にの名前が無い事を証明する為、世帯全員の住民票謄本を取得した。 「はっ、花屋!」  タクシー待機場の後部座席の窓をノックし由宇の住むマンションへと向かったが途中花屋に立ち寄り49本の花束を作って貰った。 「お客さん、凄いですね。誕生日ですか」 「いえ、プロポーズです」 「そりゃ良いや!今日は大安吉日ですよ!」 「そ、そうですか」  そうですかと言いつつ脇には汗が滲んでいた。昨日の今日で「はいどうぞ」と部屋に上げてくれるとも、言葉に耳を傾けて貰えるとも思えなかった。それでも源文(もとふみ)の言うようにあれこれと考えている場合では無かった。 (どうか、どうか神様!) 心の声A(キリスト教信者でも無いのに) 心の声B(こんな時だけお祈りされても) 心の声C(神様も困るわ) 心の声D(門前払いされたら如何すんねん) 心の声一同(考えて無かったわーーまじ馬鹿だわーー)  犀川大橋(さいがわおおはし)を渡る頃、ポツポツと雨がフロントガラスに打ち付け始めた。 「ーーーあ、雨」 「お客さん、雨降って地固まるですよ。気合い気合い」 「そ、そうですか」  急勾配の竹林の向こうにプラザ寺町(由宇のマンション)が見えて来た。一番端の部屋には灯りが点いていた。
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