花束

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 その先客は中肉中背でやや小柄だが見覚えのある顔の男性だった。一文字の整った眉、通った鼻筋には誰かの面影があった。 (ーーー源文(もとふみ)くん?)  実際に会った事はないが薄暗闇のその顔は由宇のであると思われた。その男性は玄関の扉を両手で激しく叩きドアノブを上下させながら何かを叫んでいた。 (如何いう事だ)  その扉を叩く音は廊下に響き住人が顔を出して覗き見ている。その声色は決して穏やかなものでは無く不満に満ちていた。 「由宇、開けろ!開けてくれ!」 (・・・・・!)  玄関扉の向こうの由宇の声はこちらからでは聞き取れなかった。 「やっぱりおまえしかいないんだよ!」 (・・・・・!) 「開けてくれよ!あいつとは別れた!由宇、やり直そう!な!」 (・・・・・!)  元夫が元妻に復縁を迫り元妻は部屋に招き入れる事を拒否していた。 心の声一同(早ぅ助けんか!ごるあ!)  これは明らかにおかしい状況で嵐山龍馬は由宇の携帯電話に連絡を入れた。着信音が3回鳴ったところで涙声が飛び込んだ。 「たっ、助けて!嵐山さん助けて!」 「如何しましたか」 「夫が、夫が訪ねて来て暴れているんです!」  やはり思い違いでは無かった。 「理由は!」 「もう1度やり直そうって、玄関で、玄関のドアを開けようとして!」 「やり直すつもりはありますか!」  由宇は怯えながらも力強い声で言い切った。 「ありません!」 「分かりました!」  嵐山龍馬は携帯電話の電源を切ると男に歩み寄り眉間に皺を寄せ厳しい面持ちで見下ろした。 「な、なんだよあんた」 「ご近所迷惑ですやめて下さい」  もう一歩近付いた。 「結城さんはあなたと復縁する気はないと仰っています」 「あ、あんたに関係ないだろう」 「お帰り下さい」  少しばかり屈み込むとその間抜けな顔を睨み付けた。 「おまえこそ帰れよ」 「お帰り下さい」 「な、なんだよ関係ないだろ!あっち行けよ!」 「お帰り下さい」 「なんだよてめぇは!」  嵐山龍馬は男のワイシャツの襟首を掴んで凄んで見せた。 「婚約者だよ」 「な、誰のだよ!」 「由宇さんに決まっているだろう!帰れ!2度と来るな!」 「ゆ、由宇にそんな男がいるなんて聞いてねぇぞ!」 「言う必要ないからな!」  怯んだ男は捨て台詞を吐き小走りにエレベーターホールへと向かった。 「くっ!くそ!誰があんな枯木女に!」 「もう2度と来るな!」 「来るかよ!」 心の声E(あー、花が勿体無い、すっごく高かったのに) 心の声一同(誰?) 心の声E(てへ♡) 心の声一同(てへ♡じゃねーよ!)  玄関の扉が恐る恐る開いた。  
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