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そこで由宇の番号が電光掲示板に表示された。
「あら、意外と早いのね」
着物の裾を押さえながら立ち上がると隣の男性も立ち上がった。由宇が不思議に思っているとその男性は一目散に戸籍住民課に向かい窓口の椅子に座った。
(え、私の順番じゃないんかーーーい、ごるあ)
確認の為に電光掲示板を二度見したが次の番号が表示されていた。
「あ、あの」
由宇が男性の座る窓口に声を掛けると女性職員は満面の笑みで対応した。
「ご結婚おめでとうございます!」
「はぁ?」「は?」
由宇とその男性は素っ頓狂な声を発し互いに顔を見合わせた。
「どなたですか?」
「いやいや、あなたこそどちら様でしょうか?」
そんな2人などお構いなしに女性職員は男性に「身分を証明出来る物はございますか」と問い掛け男性も生真面目な顔で長財布を取り出している。
「マイナンバーカードですね、お預かりします」
女性職員は席を立ち背後の席で婚姻届と住所氏名を照らし合わせコピーを取っていた。由宇はその間、自身の番号が88番である事と男性の番号が38番である事を確認した。
(落ち着いて見えるのに、意外とおっちょこちょいさんなのね)
すると女性職員は困った顔でこちらにやって来た。
「嵐山さん、提出にはおふたりの戸籍謄本が必要なのであちらで発行してからまた窓口にいらして下さい」
(嵐山、これまた立派なお名前。南町の嵐山ホールディングスと同じね)
「おふたりとは誰と誰の事でしょうか」
「ええーと、嵐山さんと奥様の戸籍謄本です」
それは明らかに由宇の事を指していた。
「いやいやいやいや、私は無関係です!」
「こっ、この女性とは赤の他人です!」
「ーーーですから、赤の他人がご結婚されてご夫婦になるのでは?」
嵐山という男性は「届出用紙を見せてくれ!」と鳩が豆鉄砲を食らった面差しで慌ててそれを受け取ると「なんだこれは!」と騒ぎ出した。
「これは婚姻届じゃないか!」
「はい」
「婚姻届がなんでこんなに幸薄そうな茶色なんだ!」
「それが決まりですから」
「間違えた!」
嵐山という男性は髪を掻きむしると「失敬!」と今度は自動ドアに一目散、鼻先をガラス扉にぶつけていた。
「ーーーなんでしょうかあれは」
「なんでしょう?」
「それでお客様はどのようなお手続きをご希望ですか?」
「これです!」
由宇がマイナンバーカードと緑枠の離婚届を窓口に置くと女性職員は実に気の毒そうな顔をした。
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