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「轟 姫花!」
突然、背後から聞き覚えのない男子の声で呼び止められた。
振り返ってみると、ヤンキー前田が私の目の前にツカツカと歩み寄ってきた。その顔は赤く、眉根に皺を寄せ、鋭い眼光で私を見ている。
なになになになに⁉︎
クラスメイトとはいえ、ヤンキー前田と会話どころか、挨拶すら交わしたことも無い。だから、フルネームを認識されるような接点はまるで無い……はずなのだが……
──まさか、ママ⁉︎
ママから前田の話は聞いていない。
何、何なの? 怒ってるじゃん、ママってば、何したの〜?
私は事の状況がわからない不安と、前から迫ってくる恐怖に、パニックを起こす。
「おはおはおはようございます!」
私は深々と頭を下げた。
すると、目の前に見覚えのあるランチバッグが差し出された。
ん? 私の?
私は訝しく思って顔を上げると、前田が照れたようにはにかんでいた。
初めて見る前田の笑顔に、不覚にもドキュンと胸が高鳴った。
「美味かった。サンキュ」
「え? あ、ハイ」
私は前田から視線を逸らし、バッグを受け取った。
前田は「また、頼むわ」と言って、呆然とする私を置いて校舎へ入って行った。
どういうこと?
それに、何あの笑顔の破壊力⁉︎
私の心臓が早鐘を打ちつづけている。
「姫花ってば、前田に気に入られてやんのー!」
気づけば萌香が隣に立っていた。
「え?」と、私は驚いて萌香を見つめた。
「蜂から守って、お弁当あげて……気に入られないわけないね」
えー……何でそんなことになってんの?
「まさか、あの場面で自分のお弁当差し出すとは思わなかったよ! 姫花らしくなかったよね……胃袋をつかむってよく言うけど、本当だね〜」
私は萌香の言っていることが全く理解できず、校舎に入ってから玄関の端でこっそりママへ電話した。
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