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すぐ電話に出たママは「ゴメン、言ってなかったか! その時ね……」と事の詳細を話し始めた。
私は、「言ってなかったかって……わざと言わなかったくせに!」と思ったが、電話だし面倒なのでここはグッと堪えて出かかった言葉をのみこみ、ママの話を聞いた。
ママは、蜂を退治するために前田を起こしてしまい、前田はえらくご立腹の様子で、ママを睨みつけたらしい。でもその時、タイミングよく前田のお腹の虫が盛大に鳴ったので、ママは「テスト終わったら食べなよ」と、お弁当を差し出したのだという。
オバサン特有の余計なお節介の発動だ。
前田は無言でお弁当を受け取り、事なきを得たとのこと。
「"美味しかった、また頼む"だって!」
私がそう伝えると、ママはフフっと笑って「彼、そんなに悪い子じゃないと思う」と言うと、じゃあねと通話を切った。
私は先程の前田のはにかんだ笑顔を思い出して、確かに……と、頬が緩むのを感じた。
◇
「じゃあ、テストを返すぞー……」
テスト翌日、早速テストが返却され始める。しかも、ママが出来なかったと言っていた数学。気が重い。
「あ、そうだ。返却の前に轟、ちょっと……」
先生がニヤケ顔で私に手招きをした。
何~……今度は何なの……?
私は頬の筋肉が引きつるのを感じた。
「何ですか?」
私が教卓の所まで行くと、先生は私の隣に体を並べた。
「なぁ、轟。点数もお前らしくないが、それよりも……」
先生はそこまで言ってクククと笑って、私に解答用紙を差し出した。
「お前、いつから轟 真奈美になったんだ?」
解答用紙の右上に赤い文字で7と書かれている隣。
氏名記入欄にママの名前、轟 真奈美と書かれてあった。
あぁ、ママ……。
私は何をどう取り繕えばいいのか、頭を悩ませた。
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