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「なぁに? どうかした?」
私がそう尋ねると、夫はパクパクさせていた口を閉じて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「姫花……今日は早いんだな。それにお弁当なんて作ってどうしたんだ? マ、ママはどうした?」
夫はゆっくりとした口調で尋ねてきた。
「は? 何寝ぼけたこと言ってるの? 姫花はまだ起きてきてないわよ」
私は夫の言っている意味が分からず、首をかしげた。
「オハヨ。なんか、今日すっごい腰が痛い……体も重い……」
そう言って、上体を屈めてソロリソロリと階段から降りてきた来たのは……
──え⁉︎ わ、わ、私?
私は驚きのあまり、手に持っていた茶碗としゃもじを床に落としてしまった。
足元でパリンと茶碗が割れる音がしたが、私は目の前の私から視線を逸らすことができなかった。
「え⁉」
「えぇぇぇ⁉」
目の前の私と私は、顔を合わせるなり悲鳴にも似た驚嘆の声が出て、その声は家中に……いや町内全域に響き渡ったかもしれない。
「どどどどういうこと?」
「なになになに……どうなってるの?」
私たちはパニックを起こす。
何がどうなっているのか。
私は慌てて洗面所へ行くと、洗面台の鏡に自らの姿を映す。そこには目を見開いた娘の姫花の姿があって、姫花は私の動きをなぞって動いている。その背後には私の姿があった。
「嘘⁉」
「信じられない!」
私たちは互いの顔や体を触ったり引っ張ったりする。
「イタッ! 夢じゃない⁉︎」」
「何で? どうして? 嫌だ!」
「嫌だって……あ、ねぇ、ちょっと動かないで……嘘! ヤダ、私こんな所にシミあった?」
五十歳の私の体は、自分が思っている以上にたるんでいた。パツパツのスウェットのヒップラインなんか、パンツのゴムのラインからあふれた贅肉がなんとも格好悪かった。私は自分の姿を客観視して愕然とした。
「やだやだ! 私の体、返して~!」
姫花(私の体)が喚き散らす。
夫はそんな私たちの様子をオロオロと困惑した様子でただ眺めていた。夫も私たち同様、内心パニック状態で理解が追いついていないのだろう。
それにしても私たち……
──どうして入れ替わってるの⁉︎
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