20人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「ハ、ハチ! 蜂ぃ!」
マトリョーシカ先生は、頭を抱えながら教壇から下りて、生徒たちの机の隙間を逃げ回る。
全長三センチくらいはある蜂が、先生の後を規則性のない動きで追いかけている。
スズメバチではなさそうだけど、大きい……。
「キャッ、ヤダ!」
「ちょちょちょ……」
「ヤー」
近くの生徒たちも、蜂の動きに合わせて身をかがめている。蜂は先生や生徒たちをおちょくる様に、近寄ってみたり離れてみたりしている。
テストで静まり返っていた教室内が、蜂の乱入によってギャーギャーとパニック状態だ。
それなのに、微動だにしないで机に突っ伏したまま眠っている前田くん。ある意味すごい。
そして空気を読まない蜂は、教室内アチコチに挨拶回りをした後、あろうことか前田くんの机の角にとまった。
「あ」
クラス中の誰しもが息を呑む。そして、シンと静まり返る教室。
机の角にいた蜂が、前田くんの手の方へと動くのを認識した瞬間、私は英語の問題用紙を静かにクルクルと筒状にして、振りかぶっていた。気づいた時にはすでにその筒を振り下ろしていた。
母ちゃん舐めんな!
スパーーーン!
強度のない問題用紙の筒だが、私のフルスイングを食らった蜂は脳震盪を起こして、床にポトリと落ちた。
『おぉ〜』
クラスメイトたちが小さく感嘆の声をあげた。
私は筒にしていた問題用紙を広げて、手早く蜂をすくい上げると、窓からポイっと逃がしてやった。
──バン!
突如、背後で机を叩く音がした。
私は大きな物音に驚き、クラスメイト達の息を呑む様子を感じて背筋に悪寒が走った。
あぁ、やってしまった!
眠れる魔王を起こしてしまった……
恐る恐る振り返ると、前田くんが眉根に皺を寄せ、鋭い視線を私に向けて仁王立ちしていた。
「あ~……ごめんねー……」
私は、顔の前で両手を合わせる。
クラス中が固唾を呑んで、私と前田くんを見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!