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「姫花〜!」
学校前の道路を挟んだ向こう側から、親友の萌香が、満面の笑みで私に向かってぶんぶん手を振っている。
「おはよー!」
私は笑顔で手を振り返す。
今朝、目が覚めると、昨日の出来事が夢だったかのように、ママも私もそれぞれ元通り自分の体に戻っていた。
一体、昨日の入れ替わりは何だったのだろう?
神様の悪戯?
◇
昨日の私はといえば、ママの仕事である子供英会話スクールはお休みをもらって、家で寝て過ごしていた。
ママが登校前に『腰を痛めたので』という理由を添えて、生徒さんたちへスクールお休みのメッセージを送ってくれていたのだ。実際、本当に腰が痛くて動けなかったので嘘ではない。
心配そうにオロオロするパパにも出勤してもらい、私は家に一人になって、何でこんなことになっているのかと、つらい腰をさすりながら考えた。そして、ママ(私の体)はちゃんとうまくやれているのかと、ヤキモキしていた。
試験は、ママが受けたっていい点が取れるわけないのはわかってるし、よく考えてみたらダメな方の替え玉じゃん⁉
せっかく前の日に図書館で追い込み勉強したのに……スマホの充電は切れるわ、帰りのバスに乗り損ねるわで散々な目にあって、更にはその努力も無駄になるなんて、踏んだり蹴ったりだよ!
昨日の朝はママも私もパニック状態で、時間もなかったからまともな判断ができなかったけれど、冷静になって考えたら愚かな選択だと思った。そして、ママを学校に行かせたことをひどく後悔した。
それでも一つ良いことがあった。
昨日の昼頃、四歳くらいの女の子二人が母親に連れられてお見舞いを持ってきてくれたのだ。ママの生徒なのだろう。
その子たちは、美味しそうなイチゴと、ママの似顔絵を差し出して「マナミしぇんしぇい、はやくよくなってね!」とニッコリ笑った。とても愛らしく、その笑顔と優しさに癒された。
いつも口うるさいママだけど、こんな風にお見舞いに来てくれる生徒がいるんだ……慕われてるんだなと思ったら、なんだか嬉しくて、ちょっぴり誇らしげな気持ちになった。
ママは昨日、疲労困憊した様子で帰宅した。
そんなママに、私は「目立つことしなかった?」とか、「テストできた?」と、学校での様子を問いただした。そして、ハッとした。
『ママみたい』
不意に口からこぼれた言葉がママのと重なり、私たちは二人顔を見合ってクスクス笑った。
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