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「山田マネージャー、おはようございます」
私が自席でサンドイッチを頬張っていると、今年から私のチームに配属された新人の坂口裕美子が、それまで掃除をしていた応接ブースから走り寄ってきた。
「おはよう。今日も早いね」
読んでいた新聞から顔をあげ、坂口に自分なりの精一杯の笑顔を添えて挨拶を返す。
彼女は今年採用になった新入社員の中では、断トツに器量と愛想が良くて、それでいて気も効くし、何より地頭がいい。
いい部下を回してもらったと、他のマネージャー連中の手前声に出しては言えないけど、心から思っている。
新入社員が自分の部下として配属されるのは、上司である我々にとって、ある意味“ガチャ”だ。
だって、受け入れる我々管理職には拒否権はないのだから。
去年このフロアの別の課に一人有名私大卒の男の子が配属されたけど、 一年経たない間に辞めてしまった。
もちろんそれを“根性なし”と切って捨てるつもりはないし、上司側に問題が無かったと言うつもりもない。
でも、事実として、新人に限らず配属された課員に突然辞められてしまうと、課内の仕事の割り振りや段取りに弊害が起きるし、上司自身の評価にもマイナスになる。
なので、なるべく手のかからない新人を、それなりに育てて次の課に穏便にバトンタッチできるに越したことはない。
そういった目で見ても、坂口は手のかからない、上司である私にとって、優秀な部下だ。
その坂口は私への挨拶を済ませると、さっと踵を返して給湯室に向かい、誰に言われるでもなく始めた朝のルーティンの一つ、私のためのコーヒーを淹れ始めた。
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