戦いの日々

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「そんなことしなくてもいいよ」 以前そう言って、コーヒーを淹れるのを断ったことがある。 でも彼女は、 「えへへ。実は私も飲みたいんです。てか、私の方がめっちゃ飲みたくて、私がマネージャーを利用してるだけなんで。 だって私一人だけコーヒー淹れて飲んでると、新人のくせに生意気だって周りに思われそうで…。 だから、山田マネージャーに淹れたついでに残りを飲んでるって言い訳できる方が、私にとってもいいんです。 ていうか、私、山田マネージャーが目標なんですよ。 カッコいいキャリアウーマン? だから、山田マネージャーの真似がしてコーヒーが飲みたいっていうか、あやかりたいっていうか…」 そう言って坂口は笑った。 そう言われてしまえば、私も悪い気もしないし、コーヒーを断る理由もない。 それ以来、坂口は私にコーヒーを手渡した後、自分の分もカップに注ぎ、始業までの間、自分のデスクで私の真似をするかのように新聞片手にコーヒーを飲むのが、彼女の日課にもなっている。 その為に、彼女は人一倍早く出社して、誰にも文句言われないように、に与えられた雑用を全てこなしているのだ。 --- 弊社は、博愛舎という名の、地元ではある程度名の知れた、地方を拠点にした広告代理店だ。 地元にあるプロスポーツチームの興行やミュージシャンの全国ツアー、大規模商談会や芸術文化イベント、地元のスポーツ大会などを仕切ったり、地元企業の広告やCMを制作したり、経営サポート部門は宣伝戦略立案のお手伝いなど、幅広い業務を生業としている。 私は、そこの営業部の広告作成を担当する三つあるチームの内の一つでマネージャーを務めている。 子供の時から大学までは、両親が教員という公務員家庭で育ったこともあり、比較的恵まれた生活を送れてきたと思う。高校三年間、ずっとトップクラスで、中学から始めたテニスでも、高三の年に、一回戦負けではあったが、インターハイで全国大会にも出た。 大学でもそれなりに友人に恵まれ、充実した…。 ってかなりナルシス入ってるけど、自信満々で生きてきた私が初めて挫折したのが大学三年生の時の就職活動。 希望していた都心の大手は結果的に全て落ち、私にとっては都落ちのような感覚で、地元のこの企業に就職した。
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