紫煙の中で

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「ん…っ」 いつの間にか寝てしまっていたらしい。 暗がりの中、私の隣で人の動く気配を感じて目が覚めた。 そして、そっと手をベッドの上にできた広大な“空き地”に滑らせる。 “起きたんだ…” いつもなら起き上がるところだけど、今夜はなんだか起きたことを悟られたくなくて、極力顔を動かさず目だけでその動く気配の方の様子を伺う。 それまで私の横で寝ていた彼が、ベッドから抜け出して立ち上がったところだった。 「…ふんっ」 声にならない声でため息を吐いた私はそのまま寝たふりを続けることにした。 灯りが漏れるのでスマホで時間は確認できないけど、彼が帰り支度を始めたということは、まもなく午前0時を回るんだろう。 次第に暗闇に目がなれ、彼の動きが朧げながら見えてきた。 彼は隣で寝ている私に気を遣っているのか、電気を点けず真っ暗なまま、自らが床に乱暴に脱ぎ捨てたワイシャツやネクタイを探して四苦八苦しているところだった。 “気を遣うとこが間違ってるんじゃない?” 彼に対する鬱屈した思いが溢れそうになるけど、とりあえず寝たフリは継続しておく。 しばらくすると、彼はようやく探し物を全て見つけたのか、それらを抱えてそっと寝室を出ると、リビングの先にあるドレッシングルームに向かって行った。 ドアを開け閉めする回数と閉められたドアの隙間から漏れる灯りで、ベッドの中からでもドレッシングルームの灯りが点いたのが分かった。 “やっぱりネクタイは締めて帰るんだ…”
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