壁の向こう

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「う…、うるさい! …もういいから帰って! 友梨の顔なんて、もう見たくない! もうご飯も作ってくれなくていいから、もう来ないで!」 バカなのは自覚してる。 バカと言われて怒ったというより、バカだと自覚してるところに追い打ちをかけるかのようにバカと言われたのが堪えただけだ。 本当は分かってる。 友梨の言ってることが正しいことも、私が間違ってることも、分かってる。 『自分で今の環境を変えようと頑張ってみたことある?』…か。 友梨の言葉を、口に出して反芻してみた。 さすが友梨は私の妹だ。私のこと、よくわかってる…。 私のダメなところを知ってるだけじゃなく、なんて言われたら私がダメージを負うか、もだ。 友梨が帰って再び一人となったリビングでメンソールを燻らせていると、知らない間に私の頬を温かいものが伝って落ちていった。 久しぶりの感触だ…。 普段は、弱さを見せないため何があっても絶対泣かないと決めていたけど、この日はその禁を破って、感情に任せて思いっきり泣いてみよう。 そう思った瞬間。 どこにこんなに溜めていたのか不思議なくらい、涙が溢れてきた。 思いっきり嗚咽を漏らし、涙も拭かずに泣き続けた。 でも泣き続けているうち、泣きたくなるほどの悔しかったことや悲しかったことがどんどん溢れてきて、途中からは、元々なんで泣き始めたのか忘れてしまった。 同期の男性との出世レースで報われないこと、男性からだけじゃなく、同性の同期からも妬まれていること、そして、心の平穏を保つために、決して愛されることのない相手に縋らざるを得ないこと… 考えてみたら、私の会社員生活、泣きたいことだらけだ。 でもたくさん泣いてるうちに、一番悲しいのは、妹に説教されるほどダメになってしまった、自分のズルさや不甲斐なさなんだと気がついた。 たまには思いっきり泣いてみるのもいいかもしれない。
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