縋る

6/6

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
--- その日、私は午後の仕事を早目に片付けて、17時30分に退社。 最寄り駅前のスーパーで食材を調達し、18時30分にはマンションに戻った。 そこから苦手な料理を頑張って、なんとか恥ずかしくない程度に整えたところで、指定時間の19時30分になった。 でも彼は時間になってもやってこない。 そうなると私の方も落ち着かなくなってくる。 “送られてきたメッセージ、日付はじゃなくて、本当は今までみたくだったんじゃないか”と不安になり、彼からのメールを何度も立ち上げて確認。 彼にメールを送って『今日来るよね?』と確認すべきか否か、何度か逡巡していると、ようやくマンションのインターホンが鳴った。 時計はもう21時になろうとするところだ。 「ふーっ、お待たせ」 「お疲れ様」 本当は少し詰ってやろうと思ってたはずなのに、私の口から出たのは、しおらしい一言だけだった。 やっぱり彼を前にすると、普段肩肘張って戦っている私も武装解除されて、一人の女になってしまうらしい。 こんなんじゃ、仮に本当に覚悟が決まったとしても、別れ話なんてできる訳がない。 それからは、遅れた時間を取り戻すかのように急いで食事をとると、二人一緒にシャワーを浴び、ベッドに入る。 時間は多少後ズレしてはいるけど、いつもの逢瀬と寸分違わぬルーティン。 でも、そんな決まりきった彼との時間は、何故だか私をホッとさせてくれる。 自分に素直で居られるからだろう。 --- 私がここ数日不安定だった反動か、それとも彼がいつも以上に激しかったのかは分からないけど、彼と睦んだ後、いつも以上に疲れ果てた私は、彼の腕の中でを感じながら、いつしかウトウトし始めていた。 彼が、たとえ午前0時には帰ってしまう“逆シンデレラ”だとしても。 その帰っていく先を詮索してはいけない相手だと知っていても。 この短い“幸せな時間”さえあれば、私は生きていける。 本当に、そう思っていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加