紫煙の中で

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彼に鍵を持ってもらえればこんなことしなくてもいいと、合鍵を渡そうと思ったことも何度かあったけど、その都度彼には断られていた。 彼が私の部屋の鍵を持ちたくない理由は、なんとなくは分かってるけど、彼もその理由までは言わないし、私も聞こうとはしなかった。 胸を締め付けられるは、これ以上増やしたくなかったから。 私はベッドに腰をかけ、天井を見上げる。 すっかり暗闇に目がなれ、天井に貼られた白いクロスの天井の端てわ繋ぎ合わせた部分が少し剥がれそうになっているのに気がついた。 「これって、管理会社に言えば直してもらえるんだっけ? それとも自腹?」 いろいろ考えたくないことを考えなくてもいいように、どうでもいいことを呟いてはみたものの、やっぱりダメだった。 “きっちり終電前に目覚めて、真っ暗な中で服を探して、ちゃんとネクタイを締めて帰る” 彼が来た夜のいつものルーティンなのに。 今夜だけは何故か耐えられなかった。 いつもは気づかないフリをし続けていた、私の中に巣食うネガティブな思考が、彼のさっきの行動をきっかけに溢れてしまいそうだ。 “明日も仕事なのに…” 吹き出そうなネガティブ思考を抑えるため、サイドボードの上に置かれた細いメンソールに手を伸ばし、一本取り出して火をつけた。 紫煙がベッドの上でユラユラと蠢く。 その煙の向こうに一瞬、数時間前の彼の上に跨って喘ぐ自分の姿が見えた気がした。 嫌悪感でタバコが急に苦くなり、私は慌ててタバコを灰皿に押し付けた。
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