紫煙の中で

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--- 私はタバコは基本的にこの部屋と、自分の中で唯一の心を許せる、行きつけの古びたカフェの中でしか吸わない。 だから私がタバコを吸うことを知っているのは、この部屋に来る人物…、彼と私の妹、あとはカフェのマスターだけだ。 タバコは、実はここ数ヶ月で覚えた。 この部屋を訪ねてきた二つ下の妹が忘れていったタバコ。 今度妹が遊びにでもきた時にでも渡せばいいやと取っておいていたんだけど、日々押し寄せるストレスに耐えかねて、妹のマネをして口にしたのが、吸い始めたきっかけだ。 【タバコは不良が吸うもの】 タバコを吸わない両親に、そう育てられてきた。 教員夫婦の2人の娘は、それこそ数年前までは親の躾を忠実に守ってきた。 じゃあなんでそんな私がストレスごときでタバコを吸うようになったのか。 私は生来の性格が災いし、肩肘張って仕事をしてきたツケで最近は失敗してばかりしている。 そしてそんな中で人に後ろ指を指されるような恋愛を不本意ながら始めてしまった。 そんな“不良”なら、タバコを吸うべきだろう。 不良になって、ワルいオンナに、強いオンナになろう。 そしてオトコに舐められない自分になろう。 きっかけはそんな陳腐なもの。 でもそれ以来タバコを止められずにいる。 あっという間に妹の忘れていった一箱を吸いきり、すぐ自分で買い足して現在に至っている。 “不良”なオンナにはタバコが似合う。 同じ親に育てられた妹も、元々持っていたはずのタバコに対する価値観は同じはず。ということは、妹はどういうきっかけでタバコを吸うようになったんだったっけ。      そういえば、大学生の時に負った失恋のショックでタバコを吸うようになったって言ってたな…。 それまでの自分と決別するために。
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