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私は久しぶりに来た店で常連ぽく振舞うことを躊躇してたけど、マスターは前と変わらずに“常連”として受け入れてくれた。
「灰皿は、もういらないんだけどな」
そう独り言を呟いてから程なく、私のオーダーしたホットコーヒーが運ばれてきた。
マスターもひとこと「ごゆっくり」と呟くと、もうそれ以上は関与してこない。
常連客へのこの程よいほったらかし感が、私がこの店が好きな理由の一つでもある。
灰皿を下げてもらうのも忍びないので私も特段マスターに話しかけることもせず、コーヒーの香りを吸い込んで幸福感を満たすと、読みかけの文庫本を開き、久しぶりの小説の世界へと没入していった。
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何時間経っただろうか。コーヒーも二杯目がカラになってだいぶ経った頃、バッグの中の私のスマホがRINEの着信を告げた。
「誰だろう?」
湯谷以外の友達もいないので、湯谷じゃないなら、誰だろう。
仕事関係だとしたら、休みの日にメッセージを送ってくるなんて、どんな急用だろう。
どうでもいい内容だったら、月曜日にとっちめてやろう。
そんなことを考えながら手帳型ケースを開き画面を確認すると、意外な送り主の名前とメッセージのポップアップがそこにあった。
「山田マネージャーって、田原マネージャーと不倫してるって本当ですか?」
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