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「私と田原くんとの関係がウワサになっている」と聞かされてから数週間経過。
その後周りからはなんのリアクションもない。
坂口もあれ以降何も言ってこない。
『知らない』で押し通したのが功を奏したのか、はたまた坂口が周りに上手いこと説明してくれたのか。
まあ何もないのならそれで良い。
そして、そんな噂があったことも忘れかけていたある日。
私のチームのメンバー全員に田原くんのところの山岡くんを加えて、先日のアルプス興産の案件の慰労会を開くことになった。
会場は、坂口がセッティングしてくれたスペインバルだ。
アルプス興産の案件を受けるまでどことなくギクシャクしていたウチのチームも、今回の件でようやくまとまったと思う。
そして私も、ようやくリーダーとして、メンバーにも認めてもらえたような気がする。
それまでは私より年上のマネージャー補佐、加藤さんもどこか年下の女性の私に対して思うところがあったのか、少し冷たく感じられるるところもあったけど、今は私をマネージャーとして認め、信頼を寄せてくれるようになっていた。
少し前まで、仕事にも恵まれず、バラバラになりそうだったこのチームが、こんなに団結できるなんて…。
いつしか感慨に浸っていた私は、自然と少し引いて、楽しそうなメンバーの様子を眺め、一人笑みを浮かべ、ハイボールを呷っていた。
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「そういえばさあ。
坂口なんで黒髪に戻したの?
てか、最近髪伸ばしてる?
もしかして、オトコでも…」
会が盛り上がった中盤。
もう一人の若手で坂口の先輩に当たる女の子、栗原が、それまで明るいブラウンだった髪を最近突然真っ黒に戻した坂口を揶揄うように尋ねた。
「えーっ、違いますよー。
えーっと、それはですねぇ。
山田マネージャーへのリスペクトです!
少しでも山田マネージャーみたいになりたくて。仕事じゃまだまだ足元にも及ばないから、せめて格好からでも」
「あ、だから私と同じ髪型してんの?。
そういや最近、パンツスタイル多いもんね。
でも坂口にそんなオバさんみたいな格好は似合わないと思うよ。
まだまだ若くて可愛いんだから、若い子っぽい格好したら?」
酔って気分のいい私も、軽口で参戦。
「えーっ、これがいいんです!」
言い返す坂口を、また皆が口々に揶揄う。
盛り上がって楽しそうなチームのメンバー達。
でも、楽しかったのは、ここまでだった。
あのことに気づかなかったら、もっと続いたかもしれないのに…。
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